オリジナル・ストーリー「PURE」

 

「PURE」2nd

 

――――――

 「んっ・・・・・・ううん・・・・・・あっ♪」

 女性の甘い囁きが聞こえる。

 「んっ・・・・・・くぅっ・・・・・・あんっ・・・・・・も・・・もうちょっと・・・・・・はぁ・・・はぁ・・・・・・あっ!あぁ!!・・・はぁ・・・はぁ・・・ふぅ・・・・・・。あ〜あ、こんなに溢れちゃって・・・もうべとべと♪」

 何をしていたかと言うと、固くなって取れない接着剤(セメント)の蓋をおもいっきり開けたら中身がこぼれたのだ。

 彼女の名は「ファニー」。

 「ニック」と同様、タヤマの社外モニターをしている。(他にも数名いるらしい。)

 今は真夜中だが、こんな時間まで仕事とは感心なことかと思いきや、実無関係のプラモデルを作っているところだった。

 と、そこへニックと同様に携帯が鳴った。その後の展開はニックと大差ないので割愛させていただき、彼女も工場へと急いだ。

 彼女のプラレスラー「DINKIE」(ディンキィ)は女性型のJrヘビー級である。

 詳しくはここでは伏せるが、「ディンキィ」はJrヘビー級の中でも最軽量の部類に入り、その重量はニックの「EXIV」の60%程しかない。

 にもかかわらずその性能は「EXIV」を上回る。

 そのスピードや柔軟性が圧倒的なのは想像に固くないが、それだけではあるまい。

 そこら辺の秘密は追って明らかにされるだろう。

 ファニーのタヤマ社外での活動は、ニックとは多少異なる。(それがディンキィの性能の所以だろう)

 ディンキィは試合に参加して相手を倒すことは考えていない。

 ディンキィの機体には通常よりも遥かに高度な各種センサーが取りつけられており、対戦相手の精密な接触データを収集する。

 つまりディンキィは自動分析機(アナライザー)なのだ。

 未知の相手と対戦し、データを収集分析し、タヤマに持ちかえる。

 このディンキィの存在がタヤマ急進一端を担っているといって過言ではない。

 データを取るには戦ってみるのが一番だが、その為にはそれなりの性能は必要だろう。

 あっさり倒されては収集どころではない。(それに加え、ディンキィには金がかかっている。大破させられるわけにはいかない。)

 その為ディンキィの機体は、相手を倒すことよりも相手に倒されないことを目標に設計されている。

 それには超軽量女性型Jrヘビーというのは理に叶った選択と思える。

 しかし相手を倒さないのでは試合にならないので、主にゼファードを連れてタッグマッチに参加する。

 そうすることでディンキィの活動をカモフラージュできるメリットもある。

 ―TAYAMA静岡工場。

 ここの地下3階最深部に「プラレスラー開発部」がある。

 ファニーは急いで自分の職場に向かっていたが、途中に道中と同様に幾つもの検問が設けられなかなか辿り着けないことにイライラしていた。

 しばらくしてようやく開発室の辿り着いたが、そこは黄色の「KEEP OUT」のテープでグルグル巻きにされていた!

 「なっ・・・なんだこりゃあ!」

 大急ぎで中に入ろうとするが、案の定警官が走ってきた。

 「こらこら!勝手に入っちゃいかん!」

 「私はここの社員ですっ!」

 「・・・あなたが?・・・う〜ん・・・」

 (その「う〜ん」はなんだ!?)

 怪訝な顔でこちらを観察する警官を思わず殴りそうになったが、何とか食い止める。

 (落ち着け落ち着け、日本には公務執行妨害という罪があるのだ。このお巡りさんも夜中の電話で起こされた可哀相な人なのだ。)

 多分夜勤の警官だろうが、なんとか落ち着こうとするファニー。

 しかしその努力は報われない。

 「それでは身分証明書を拝見」

 「ここまでに何回見せたと思っているの!見せずにここまで来られると思うの!」

 「規則ですから」

 「きぃぃぃぃぃぃっ!!」

 ファニーはその場にどかっとあぐらをかくとがばっと手持ちのケースを開き、ディンキィを膝の上に乗せると狂ったようにキーボードを叩く!

 「ほう・・・これがプラレスラーですか?」

 「そうよ。良っく見てね♪」

 「えっ?」

 「DINKIE、SET UP!。リミッター解除、戦闘モード!これが私の身分証だ――――っっっっ!!

 ファニーの膝からぴょん!と飛び上がったディンキィは何と、覗き込む警官の眉間目がけてフライングヒールキックをかます!

 「おごわっ!」

 「これでどーだぁっ!」

 ファニーは完全にキレていた。

 眉間にクリーンヒットを受けた警官は、思わず床に転がるという醜態を曝した。

 「き、貴様ぁ・・・。警官に向かって・・・。」

 この騒ぎを聞きつけて周りの警官も集まってきた。

 そしてファニーとの間で押し問答が始まる。

 と、その時、横の自動ドアがシュッと開き、髭を生やした大男が顔を出した。

 「何の騒ぎだ!ファニー!何をしとるんだ!?」

 「あら、長谷主任」

 彼こそが二人を電話で呼び出した張本人であり、この開発室の最高責任者、長谷洋主任である。(彼は社外活動を行う事がないので本名である。)

 身長190cm、体重100sの巨躯を誇る、日本一白衣とネクタイが似合わない男である。

 「主任!ひどいんです、この人たち!」

 ファニーは涙ながらに両目をキラキラさせて(もちろん嘘泣き)主任に訴えた。

 「私がどー見てもここの社員に見えないって、中に入れてくれないんですぅ・・・」

 「それは君が魅力的だからさ」

 「あら、お上手♪」

 長谷主任はファニーの訴えをさらりとかわし、膨れたハリセンボンのようになった彼女の心中を一瞬でなだめた。

 この男、出来る!人身掌握術とはかくありたいものだ。

 その後もしばらく長谷のファニー説得が続き、ファニーも身分証明証を渋々警官に提示した為、事亡きを得た。

 その際ファニーが身分照明証を胸ポケットから出したのを見た警官たちは一斉に(そんなとこにあるなら、すぐ出せばいーじゃないかっ!!)と心の中で憤怒した。

 開発室内は現場検証も済み、何人かの職員が事情聴取を受けていた。

 ファニーはその様子を一瞥してから長谷に問う。

 「・・・いったい何があったんです?」

 「うむ・・・、それはニックが到着してから話そう。・・・それにしてもニック遅いな・・・」

 「いつもの事ですわ」

 ニックの運転の酷さは社内でも有名である。

 検問に引っかかっている事は容易に想像できる。

 「そうだな。そういえばファニー、こんな時間に起きていたようだが、仕事か?感心だな!」

 「えっ!!えぇ・・・そーなんですぅ♪」

 まさか、ライバル社「伏見模型」から新発売された我が愛車(軽ワゴン4WDターボ)のプラモデル(インチアップ、フルエアロ、大径マフラー付き)を徹夜で完成させようとしていたなんて、口が裂けても言えない。

 思わず思い付きでテキトーな事を言う。

 「じっ、実は積層装甲に使用しているラバーに変わる素材はないかと思って・・・」

 「ほう・・・どんなものを考えている?」

 「豊胸用シリコン、高発泡スチロール、エア・バック、カーボンファイバー・・・」

 「それ、おもしろいな・・・」

 「ええっ?」

 これがファニーの才能である。

 本人は口から出任せのつもりなのだろうが、このとっさのひらめきが天才的である。

 そしてその才能はプラレスラーの操縦にも用いられる。

 ディンキィの性能はファニーの操縦で初めて100%発揮される!

 「それ、続きは「ORAGE」(オラ―ジュ)の開発室に回す。やつら大喜びするぞ、「仕事増やしやがって」って!」

 「げげっ!もうあの部屋には近づけない!」

 「ただしカーボンというのは諦めてくれ。そんな物とてもウチじゃ加工できん!」

 (カーボンファイバーというのは、その名の通り、炭素の繊維である。それを布状に編んだ物を使用する。それを何枚も接着剤で張り合わせたり、金属に貼り付けたりする事で非常に軽量で強度のある素材になるが、加工には特殊な設備が必要で非常に費用がかかる。)

 と、そんな話を二人でしていると、何やら部屋の外が騒がしい事に気が付いた。

 何者かが警官ともめているようだ。

 「ま・・・まさか・・・・・・」

 二人が顔を見合わせた時、ニックの叫び声が響く。

 「EXIV、SET UP!」

 「わ――――――――――――――――っ!!」

 長谷とファニーの悲鳴がハーモニーを奏でる・・・。

 

 第2話 完

 

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