「PURE」3rd
「とっ・・・盗難?」
ニックは思わず聞き返した。
長谷は苦虫を噛み潰したような顔のままうつむいている。
「無理だわ・・・こんな警備は厳重な所から・・・」
「だが事実だ」
しばらく沈黙が続く・・・。
が、ニックがふと大切な事に気付き、口火を切った。
「・・・何が盗まれたんです?」
「!、そっ、そうよ、それが問題なにょのの!」
一番大切な事に気付かなかった恥かしさで口が回らないファニー。
しかし、そんなファニーのすっとんきょーな発言にも長谷は表情を変えない。
いや、さらに険しい顔になっている。
「・・・主任?」
「盗まれたのは・・・・・・XX(ダブルエックス)だ・・・」
ニックとファニーの二人は凝固した。
盗難にあったのは社外秘中の秘、門外不出の試作機の内の1機「ZEPHERED MKW XX」である。
――――ゼファードは現在MKZまで存在する。
MKT、MKUは実用性能に到達せず、プロトタイプで終わった。
実用化されたのは「MKV ZX(ゼクロス)」からだ。
この「ZX」を量産したのがタヤマ初の市販機「ゼクロス」だ。
さらにタヤマでは、ゼクロス市販開始と同時にゼクロスに変わる次世代機の開発がスタートしている。
(自動車でもTVゲーム機でも大体そういうものである。)
そんな中で登場したのが3機の試作機、
「MKW XX」
「MKX ZENITH(ジーニアス)」
「MKY ED(イーディー)」
だ。
これら3機は量産化を考慮せず試験開発されている為、莫大な資金が投入されている。
この内、「MKW XX」はゼファードのパワーアップをねらったもので、大幅な出力向上が測られている。
だが、その反面ゼファードのテクニシャン振りやトータルバランスの良さは失われている。
また、パワーアップに伴う重量増を補うため、エアノズルの推力を増強した結果、スピードでもゼファードを上回るという意外な結果を産んでいる。
さらに、多重稼動装甲や装甲内エアノズルなどの新技術も同時に試験されたが、そちらの結果は芳しくなかった。
その結果、総合性能で同時に開発されていた「MKX ZENITH」に劣るとして、開発中止されている。
また、同様に「MKY ED」も開発断念、解体され別の機体に転用された。
そしてこれら2機の実験結果やディンキィからもたらされた情報、さらに「ゼクロス・カップ」で得られたセッティングなどの情報がフィードバックされ、量産型「MKV ZX」は改修を受ける。
改修後の機体は「MKZ EXIV」と呼ばれ、「EXIV」を量産した物が市販の「ゼクロス−U」型となった。
―――
「産業スパイか・・・。こんな事って現実にあるんだ・・・。」
ニックが呟く。
さらにファニーが続く。
「でも、計画凍結された「XX」でよかったわ。これが「ZENITH」や「ORAGE」だったら事よ・・・。」
そこへ長谷が口を挟む。
「ところがそうも言ってられん。単純な産業スパイなら助かる」
「?。どーゆー事ですか?」
「試作機の事が社外に漏れているとは思えん・・・。それに産業スパイなら「XX」でなく、「ZENITH」や「ORAGE」を狙うのではないか?」
「・・・・・・と、言うことは?」
明らかに答えづらそうな長谷。
「主任!」
「・・・「XX」担当だった河田君と連絡が取れん・・・。」
この瞬間、ニックとファニーは長谷の言わんとしている事を理解した。
「河田が!?」
「まさかっ!河田さんは先日、円満退社したって聞いたわ」
「・・・確かに、依願退職で何のトラブルもなかった。しかし会社の極秘プロジェクトを知る立場だ。いつでも連絡が取れる事が条件で、それなりの処置は講じてある。海外に旅行中でも連絡が取れる筈なのだが・・・。」
「なるほど・・・。この厳重な警備を破るなんてと思ったけど、奴なら不可能じゃない」
「でも、目的が解らないわ。こんな事をして何になるの?」
「その通りだ・・・」
「いや、主任。俺には奴の考えている事が解るよ」
「何っ?」
「ニック!」
「奴は最後まで「XX]の凍結には反対していた。「XX」の性能は「ZENITH」より上だと信じてた。その気持ちはとっても良く解るよ。同じモデラーだ。自分の作ったものが人のより劣っているとは認めたくはないんだろう」
「でも、そんな事でこんな大それた事するかしら?これは立派な犯罪よ!」
「いや、解ったよニック。俺にも解った。河田君は「XX]の開発を続行したいんだ。「XX」が「ZENITH」より上だと証明したいんだ!」
「・・・そんな・・・無理よ!!。設備も資金も個人で揃えられる物じゃないわ!」
「たぶんそこまでは考えが及んでないんじゃないかな・・・とりあえず「XX]を自分の手元に取り戻した・・・」
「なるほど・・・」
「この件は警察には?」
「話した・・・。警察でも彼の所在を当たってくれるそうだ」
「・・・この件、ニュースで報道されますね・・・。何かショックだわ・・・、身の回りでこんな事件が・・・」
「・・・そうだな・・・」
―――数日後、警察から知らせが入った。
河田はダムの底から遺体で発見された・・・。
「XX」の行方は闇の中へ消えた・・・。
第1章 完