「PURE」4th
―――――あれから一ヶ月が経過した。
事件の捜査は遅々として進んでいないようだ。
ニックとファニーの二人は、今日は関西に出張だ。
ここで行われる地方団体の大会に飛び入り参加する為である。
第2章「RETALIATION」
今日の仕事はいつも通りである。
こういう時は地方の小団体というのは便利である。
参加者が少ないため、飛び入り参加を温かく迎えてくれる。
さらにプラレスラーが市販機という事で、ある程度性能が予想できるという安心感もある。
(もちろん、ニックのEXIVの性能は一般ユーザーのゼクロスとは比較できないが。)
しかし今回は、受付でミスった。
予想に反してチェックが厳しかったのだ。
―――――
「それでは…、これと…これに必要事項を記入してくださーい」
「は―い♪」
やや小太りの、丸い眼鏡をかけた、容姿が若干難儀な少女に2枚の書類を手渡されると、ニックは無言で記入を始めた。
返事をしたのはファニーだけだ。
受付の少女が席を外した隙に、ファニーがニックに語りかける。
「あんた、相変わらずハッキリしてるわね…」
「何が?」
「この間は受付のコに『君の名前と電話番号もここに書いてくださ〜い』とか言って、自分の手帳を出してヒンシュク買ってたじゃない」
「…つまらん事覚えてる奴だな」
「可愛いじゃない、彼女。ポッチャリしてて」
「…………45点」
「あんた、いつか背中から刺されるわよ」
「だーい丈夫!。80点未満には近寄らない事にしてる」
「あら、嬉しいわ。私は80点以上あるのね!」
「…………」
「…………」
二人の間に妙な緊迫が走った時、45点が戻ってきた。
「書き終わりました?」
「!。あ、はいは―い♪」
「…………」
相変わらず無言のニック。
「こちらが『大橋健太』さん。こちらは…なんとお読みするのかしら?…『フ…ラ…』」
「あっ!!」
「げっ!!」
ニックとファニーの二人は激しく狼狽した。
受付の少女はきょとんとしている。
ニックはちゃんと『大橋健太』という今回限りの偽名を記入したが、ファニーはうっかり『Francess Backmayer』と見事な筆記体で書いてしまった。
「あ、えっと、『フランシス=バックマイヤー』です」
「へぇ〜、日本語お上手ですねぇ!」
「いえ、生まれも育ちも国籍も日本です。両親はフォーリナー(外国人)ですけど…」
「あ、そーなんですかー」
ファニー得意の咄嗟の機転でかわす。
よく聞くと何かおかしい気がするが、わざとらしく混ぜた「Foreigner」という英語も理解されてない様なので問題ないだろう。
ニックは目でファニーを諭す。
それに対し、舌を出し肩をすくめて見せるファニー。
「ご住所はお二人とも東京…、参加理由は「武者修業」ですかぁ?。いーですね―、そーゆーの!。生活費とかはどうしてるんですか?。やっぱりバイトとかしながら?。素敵だわぁ、正に修行って感じ!。憧れるなぁ…」
「はは…」
「…………」
何が素敵なのかさっぱり解らず失笑するファニー。
ニックは相変わらず無言だ。
「それではお二人のプラレスラーを拝見します。『EXIV』と『ディンキィ』ですね。あ、良く出来てますねー、これ」
「ありがとう♪」
「…………」(無言のニック)
「これ、タヤマのゼクロスね。Uかなぁ?」
「…………」(無言のニック)
「あ!こっちのコもかわいいー。へぇ〜。この肌何で出来てるのかしら?。この子は何かベースに使ってますか?」
「いえ、ハンドメイドです(嘘)」
「…………」(無言のニック)
「それじゃ少しの間お預かりします。レギュレーション(規則)に合致してるかどうか、検査させて頂きますので」
「…………、えっ!!」
ニックが久しぶりに反応した。
そのニックの挙動に受付の少女も驚いたようだ。
「?、な何か?」
「そ…その検査というのはどの程度の…?」
「は?」
「いや、その…こーゆー物には人それぞれの企業秘密…」
「健太!」
ニックが企業という言葉を使った事に、ファニーのチェックが入る。
「いや、企業じゃなくて、個人の企業秘密が含まれるもんで、あまり詳しく調べられるのはちょっと困るんだが…」
「困るといわれましても、飛び入り参加者には当然の処置だと思いますし、主催者にはその権利があると思います。」
「う〜…」
「ご心配なさらなくても大丈夫ですよ。そんな厳密な検査をするほどの設備も時間もありません。それに、私どもの団体はフランクで有名なんです。レギュレーション(規則)はビックリするほど甘いですよ。あ、これ試合までに読んでおいてください」
そう言って何やら書類を手渡す。
コピーをホッチキスで留めただけの簡単なものだ。
なるほど、確かに薄い。
と、二人が書類に目を落としている一瞬の隙に、受付の少女と二人のプラレスラーは消えていた。
「ああっ!、しまった!」
「大丈夫よ、ニック。彼女の言う通り、そんな大した検査は出来ないわよ。」
「しかし、今日のEXIVには未発表のパーツが」
「だーい丈夫!EXIVの解体には専用のドライバーが必要だし、ディンキィなんて切開手術が必要なのよ」
「そりゃそうだが、ミスったな。こんな地方団体でちょっと舐めてたかな?」
「は〜い、検査終わりました〜。2機とも、問題ありませ〜ん」
「どわっ!」
受付の少女が突然現れた。
戻ってくるのが予想外に早かった。
「ももう終わったのか?」
「だから、大した検査は出来ないって言ったじゃないですか」
「何を検査したのよ?」
「えーっと。身長、体重、停止回路(ストッピングサーキット)の有無と作動確認、装甲材質。そんな所ですね」
「(余計な心配して損した)」
がっくりと肩を落とすニック。
「ただ、ディンキィさんがちょっとね〜」
「えっ!?」
「確かにストッピングサーキットは作動するんですけど、どこにあるのか分からないんですよ。そもそも受信機はどこなんですか?このコ」
「」(さっそく頭の中で言い訳を考えるファニー)
「どこにあるかだけ、教えて頂けませんか?」
EXIVと違って、ディンキィこそ企業秘密の塊である。
実は受信機は眼球に仕込まれている。
眼球はモニターカメラと受信機を兼ねるだけでなく、望遠から顕微まで出来る複合カメラアイ、目標を透視するX線探査装置、目標の温度分布を測定する赤外線受信機(サーモグラフィ)、目標までの距離と移動速度を測定する赤外線レーダーなど、各種センサーを集合し、総合処理するとんでもない代物である。
(ちなみにX線は空港の手荷物検査程度。大した事は解らない)
「内緒♪じゃダメですか?」
「…う〜ん。とりあえずは構いませんが、対戦相手に受信機の位置を告知できません。試合中に攻撃が命中してしまっても相手にペナルティを宣告出来ませんが、それでもよろしいですか?」
「構いません」
「それでは結構です。両名の参加を認めます。早速ですが、本日のタッグトーナメントの第1試合に組み込ませて頂きました。試合開始は正午、それまでは控室でお待ち下さい。15分前に係員がお迎えにあがります」
「分かりました」
「それでは宜しくお願いします」
「こちらこそ」
二人は受付の少女と軽く握手を交わす。
その際、彼女が驚くべき言葉を発する。
「自己紹介が遅れました。私が当団体の代表『楢塚美雪』(ならづかみゆき)です。私も同じトーナメントに参加します。決勝でお待ちしております」
「えっ?」
そして二人はこの後、地方団体の恐ろしさを思い知る事になる。
to be Next.
〜あとがき〜
第2章から「PURE」はメインストーリーに入ります(第1章はプロローグ)。ここで、このストーリーの最重要人物の登場となります。
『楢塚美雪』。彼女の言動、一挙手一投足を記憶に留めておいて頂けたら、この先楽しんでいただけると思います。彼女には第4章のラストまで付き合ってもらう予定です。
そしてさらに重要なキーワードが2つ。1つはファニーの「ディンキィ」。ディンキィについては第1章でも伏せましたが、その片鱗は見れると思います。
そしてもう1つは…、第7話にて。