「PURE」5th
―――地方団体の恐怖。それは!
訳の分からぬプラレスラーが闊歩しているリベラル(自由主義)な団体が多い事である。
脚が3本、腕が4本なんてのは当たり前。
大きな団体、全国規模の大会等では到底認められないようなプラレスラーがゴロゴロいる。
今日のこの団体もまさにそんな団体、魑魅魍魎との戦いとなった。
しかし、案の定そのレベルは驚くほど低い。
中にはゼクロスや他メーカーの市販機も見受けられるが、「なぜ?」というほどレベルが低い。
セッティングやプログラムの違いでこれほど差が出るものかと感心する。
もっとも、そのセッティングというのが見た目重視の機体が圧倒的に多いのが地方団体の特徴。
田舎の暴走族と同じだ。
意味のないパーツなどが良く目に付く。(あまり人の事は言えないが…)。
ハンドメイドの機体や、市販機の原型を留めない程改造したような機体にも同じ事が言える。
せっかくの奇異な容姿も全く生かされていない。
腕が4本なら4本なりの戦術もあろうが、そこまでのプログラムはされていない。
でも、まぁ、本人達が喜んでやってるからいーじゃないの。
そういう楽しみ方があってもいい。
上を目指すのなら、さっさと卒業すればいいんだから。
プラレスをホビーとして楽しむ、そんなあっけらかんとした明るさ、そんな団体があってもいいと筆者は思う。
で、も、ね…。
だからといって舐めてかかっちゃあいけないよ。
そんな中にこそ、金の卵がいたりする。
無名の逸材がいたりする。
それもまた地方団体の恐怖…。
―――
1回戦、2回戦はニックとファニーにとっては稚戯に等しかった。
正直、スパーリングにもならない。
それでも妙な物体の妙な行動は見ていて楽しかった。
客席も大いに沸き、なにやら和やかな雰囲気で(?)試合は消化されていった。
しかし、準決勝となる3回戦で思わぬ強敵と当たった。
対戦相手の2機は何と!、正統派だった。
2機の内1機はJrヘビー級で、『ラプター』という名称で呼ばれた。
この機体は一目で玩具メーカー『ヴァンダイ』の『VRX−002 GUN−DOLL MK−U』と判明した。
ヴァンダイは元々は玩具メーカーだが後に模型も手掛け、かつては自動車や戦車などの模型も作っていたが、現在はロボットアニメのロボットを寡占的に市販している。
プラレス創世期には最有力メーカーと目されたが、実際にはロボットのプラモデルの経験なぞは何の役にも立たず、むしろ玩具の経験の方が生かされた結果だ。
ただし外観デザインには定評があり、それは間違いなくプラモデルの経験だ。
いかにもロボットアニメな機体を自在に動かす魅力は少年達のハートを鷲掴みにしている。
現在ヴァンダイでは、プラレスの技術を逆に玩具にフィードバックした対戦型のシューティングゲームを開発中。
それは、ものすごく面白そうだ!。
市販されればプラレス人気を食うほどのムーブメントと成り得る。
元々ヴァンダイはそのつもりでプラレス参入したのかもしれない。
そして2機の内のもう1機はヘビー級、名称は『ベルクート』と呼ばれた。
男性型とも女性型ともとれる中性的なデザインだ。
プラスーツは完全オリジナルで、一見ハンドメイドの機体かと思われた。
全身が金色に塗装された外観は一見派手に見えるが、実は地方では珍しくない。
この機をディンキィで分析した結果、なんとニックのEXIVと同型機、タヤマのゼクロスUと判明した。
そこで、ニックのEXIVに限らずゼクロス全機が持つ弱点が露呈される羽目になった。
ゼクロスの特徴は、あらゆる面で平均的に能力を発揮するオールラウンドプレイヤーという事である。
トータルバランスに優れ、色々なタイプの相手にも臨機応変に対応できるという能力を持つ反面、実は自分と似たタイプの相手は非常に苦手という事実があった。
実際、社内テストで同クラスのゼクロス同士でスパーリングを行うと、互いに決定打が決まらず勝敗が着かないという事が多々ある。
当たり前の事のように思えるが、それが実戦でもそうなってしまうのだ。
この場合勝敗を決するのは「熟成度」である。
「熟成」というのは実戦経験でのみ得られると筆者は考える。
研究室のスーパーコンピューターを何時間稼働させても得られないものがそこにあると思う。
能力が拮抗している場合、実戦経験の豊富な側が勝利を得る。
この試合ニックのEXIVが勝利できたのは、まさにこの実戦経験の差。
ニックの職業柄、EXIVの実戦経験は圧倒的に豊富だ。
ちなみにこういう試合の場合、ディンキィは専ら分析に専念し、目立たない様に(彼女のしている事は人に言えるような事じゃないので)戦況を変えるような行動は慎むのが普通。
しかし予想外の接戦となった事で、ニックとファニーの二人(特にファニー)はちょっと熱くなってしまった。
そしてフィニッシュは結構本気でやってしまった。
長谷が聞いたら大激怒する大失態だ。
―――試合は終盤を迎えていた。
「ラプター」と「ベルクート」は息の合った合体技等が冴え、一進一退の攻防を展開していた。
EXIVがベルクートをロープに振る。
そしてベルクートが返ってくるはずの空間にEXIVがドロップキックを放つ。
が、そのままマットへ落下。
ロープで静止していたベルクートはその場でEXIVに背を向けるとトップロープへ飛び乗る。
「はっ!」
ベルクートの気合一閃。
ロープの反動を利用してムーンサルト1/2ひねりのフットスタンプ!
EXIVが避ける間もなく、ベルクートは綺麗にEXIVの腹部に着地する。
「ぐはっ…」
EXIVの唸りと共に頬のエアアウトレットから何かが漏れる。
ベルクートはEXIVの腹部から降りずに、拳を握りしめ遠い目?で天井を見上げている。
観客は大喜び!。
コーナーに控えるディンキィがトップロープを叩きながら罵声を浴びせる。
「EXIV何やってんの!!。こらぁ〜お前いつまで上乗ってんだ!、ブルース・リーか、お前は〜!!」
つまらない知識が入力されているディンキィ。
ファニーの趣味だろう。
その時ニックは、
「やるなっ…」
思わずこんな声が出る。
しかし、その表情に焦りはない。
ニヤリと笑ったような微妙な表情だ。
それを見て、隣のファニーが声をかける。
「ニック、大丈夫なの?」
「だいじょーーーぶ!」
即答するニック。
―――
ベルクートはEXIVから降りたが、EXIVは立てない。
ベルクートがEXIVのモヒカンを掴んで無理やり立たせる。
しかし、これはEXIVの演技だ。
ベルクートの次の行動はわかっている。
その予想通り、ベルクートはEXIVの背後へ回りEXIVの腰に手を回す。
ジャーマンスープレックス!。
しかしEXIVは、グッと堪える。
「スープレックスマシン」の異名を持つEXIVである。
ジャーマンで投げられるのはプライドが許さない!。
フィニッシュの時は来た!。
EXIVはディンキィに顔を向けると一言声をかける。
「頼む」
「了〜解♪」
ディンキィもEXIVの次の行動は解っている。
ディンキィはサードロープに足をかけ、カットの体勢に入る。
EXIVは、腹部の前で組まれたベルクートの手を掴むと、ベルクートが引っ抜きに来たタイミングに合わせ自らマットを蹴り大きくジャンプ。
同時にベルクートの手をちぎると空中でバック宙、ベルクートの背後へ着地する。
ベルクートが事態を把握する間も無く、ゼファードシリーズ全機共通の必殺技「タイガースープレックス」炸裂!!。
一度上に持ち上げられてからドスンと落とす高角度式。しかもこの手の組み方は、いわゆる「85」だ(ちなみにEXIVは、ほとんどのスープレックスを「高速」にも「投げっ放し」にも使い分け可能)。
そのブリッジは美しく、正五角型を思わせる見事な物だ。
レフェリーロボ「ナンシー」(正式名称「NAN JACK Au Lait」。こいつはロボだ。プラレスラーではない。足は無く、4輪走行である)が、フォールカウントの体勢に地に伏せる。
と同時に相手コーナーに控えるラプターがEXIVのブリッジを潰すべく突入する。
ここで、片足をサードロープへ掛けたディンキィの出番だ。
ひらりとトップロープを越え、ラプターのカットに向かう。
ここでディンキィは思わずやりすぎてしまった。
ファニーはニック以上に熱くなるタイプである事は、一月前の事件の夜に判明している。
トップロープを越えたディンキィはマットを蹴ると一直線にジャンプ。
EXIVのブリッジを飛び越え、まだその向こうにいるラプターへ右腕でフライングラリアット!。
しかし体格差が大きく効果は期待できない。
案の定、パチーンと軽い音が鳴る。
しかし、このフライングラリアットはフェイント。
ディンキィはラプターの頭部を軸にクルっと背後へ回る。
更に右腕をラプターの頭部に絡めたまま背後から左腕を取る。
その直後、ラプターの姿が一瞬消えた。
ラプターは後頭部からマットに沈んでいた。
チキンウイングスープレックス!。
ディンキィの低高度超高速スープレックス、小柄な体形と異常な柔軟性で相手の体はその場で回転したかのように思えた。
EXIVのタイガースープレックスで歓声が上がった会場が、一転水を打ったように静まり返った。
それほどディンキィのチキンウイングスープレックスは鮮烈だった。
子供のように小柄なディンキィが明かに自分より大きい相手をスープレックスで投げたのだ。
それも前方から飛び付いた一瞬で。
ディンキィがこのような地方大会に似つかわしくない、とんでもない性能の持ち主である事が容易に想像された。
カウント3を知らせるゴングの音がいつもより大きく聞こえた…。
to be Next.
※註
「ラプター」
英語で「猛禽類」の事。アメリカ空軍のF−15に代わる次期主力戦闘機F−22の名称。レーダーに映らないステルス機、空の暗殺者。先日ついに量産型の生産が開始された。まもなく実戦配備されるだろう。F−15同様、F−22も自衛隊でライセンス生産しないかにゃ〜。1機120億円くらいするけどね(笑)。買っちゃえ、買っちゃえ〜♪。
「ベルクート」
ロシア語で「金の鷲」の意。ロシア空軍の実験機Su−37の名。現時点で最も美しく、最も格闘戦に強いと断言できる戦闘機。F−22相手では格闘戦にならないのが残念だが…。
ロシアの財政事情により量産配備は見送られたが、大変残念な事である。筆者はアメリカの「ステルス神話」がベトナムの「ミサイル神話」の轍を踏みそうな気がしている。やはり最後は空中戦性能が物を言うのでは…?