「PURE」6th
EXIVはいつも通り何事も無かったかのように片膝を付き、そして立ちあがる。
ディンキィはブリッジの体勢からゆっくりと床体操の選手のように立ちあがり、軽く髪を掻き上げた。
そこで会場が思い出したように歓声を上げた。
ナンシーが2機の腕を高く掲げ、勝利者を宣言する。
ベルクートがラプターによろよろとおぼつかない足取りで近寄り声をかけていた。
ディンキィは周囲に手を振りながらEXIVに語りかけた。
「以外にてこずったわね…」
「…やりすぎだ、ディンキィ」
「えっ?」
ディンキィがEXIVの見ている物に目を向ける。
ベルクートがマットに膝を付き、ラプターの上体を抱き抱えていた。
ラプターの首関節が向いては行けない方向を向いていた。
「あ…」
EXIVの言葉の意味を理解した。
正面から首を捻りながら背後へ回りスープレックス。
その破壊力を当のディンキィが見誤ったようだ。
「彼らとは良い試合ができた。なのに後味が悪くなったな…」
「……そうね…ごめんなさい」
いい試合、これはニックのポリシーだ。
彼は試合結果より試合内容を重視する傾向にある。
その為、時には敢えて相手の攻撃を受けて見せるような事もある。
先程のフットスタンプもその公算が高い(ディンキィには伝わってなかったようだが)。
ディンキィはナンシーの手を振り解き、ベルクートに声を掛けようとする。
「あ…あのさ…」
「よせ、ディンキィ」
EXIVが声で静止する。
「2人は十分強かった。同情は侮辱となる」
「…そうなの?」
「そうプログラムされている」
「…そう……」
EXIVとディンキィは無言でリングを後にした。
一方リング下では、リング上とはまた違った緊迫感が発生していた。
ニックがファニーをにらみつけて言う。
「…おいっ…ファニー!」
「なぁに〜♪」
ファニーは平静を装っているが笑顔が引きつっている。
「だーっっっ!。かわいこぶりっ子が通用する歳かぁ〜?」
「う〜ん…だめかぁ〜」
ファニーは腕を組んで首を傾げている。
「今のはまずい。やりすぎだ。俺たちが手を抜いていたのがバレるぞ!」
「ごめんなさい。ちょっと熱くなってしまったわ」
「まずいなー。いつもはテキトーな所で負けて帰る所だが、次の決勝でコロッと負けたら余計怪しまれるぞ」
「…そうね…」
「……………」
しばし沈黙の後、
「ファニー、主任に怒られるぞ」
「ひえぇ…」
実は長谷は怒ると怖かった。
二人が長谷への言い訳を考えながら片付けをしていると、対戦相手の二人が近づいてきた。
一人は慎重な面持ちで、一人はうつむき加減で表情が見えない。
2人は一見してまだ少年だ。
どんな反応を示すのか、ニックとファニーは緊張して二人の発言を待った。
「ありがとうございましたっ!。とってもいい試合でした!!」
「へっ?」
二人は笑顔で大きくお辞儀をして握手を求めてきた。
ニックは2人の予想外の元気に気圧されてしまっている。
「バック宙からのタイガー!、凄かったです!。感動しました―。思わずフォール返すの忘れちゃいましたー!」
おそらくは返したくも返せなかったろうが、彼は試すことも忘れていたらしい。
「え?、あ、そ…そう。いや、こちらこそいい試合だった。ありがとう」
「はいっ!」
ファニーももう一人の少年に半ば強引に手を取られ、ぶんぶん振り回して握手をしている。
ファニーはちょっと申し訳なさそうに、
「あ…あの、でも…私、あなたのプラレスラー…」
「あ、いーんです、そんな事。首関節と命令系統の損傷だけです。あのくらいすぐ直っちゃいます!」
(人間だったら死んでるけど)
「そ…そう?」
「はいっ!それよりまた来てください。もう一度やりたいです!」
何と爽やかな少年達だろう。
ニックとファニーの2人はこの少年達を見て激しい罪悪感に襲われていた。
この二人に比べて自分達のやっている事の何と阿漕な事か。
2人の笑顔も会場の拍手も、ニックとファニーの2人には氷のナイフとなって胸に突き刺さる…。
―――決勝戦。
どうやってこの場をごまかすか思いつかないまま、その時を迎えた。
リング上には“彼女”が予告通り待っていた。
楢塚美雪。
仁王立ちで2人を待つ。
「…本当に決勝まで来るなんて、ちょっとびっくりね…」
「………」
2人は返事に窮した。
「準決勝、見させて頂いたわ」
「………」
「あなた達が話したくなければ二人のプラレスラーに聞くまで、あなた達が何者なのかね」
美雪の笑顔が震えた。
「何が目的なのか知らないけど、これ以上私の団体で好き勝手はさせないっ!私が許さない!!」
to be Next.