「PURE」10th
「うわんっ!」
犬の鳴き声がした。
ニックとファニーはびっくりして顔を上げた。
「うわん?」
「なに?」
うっぴーの手の平を踏み台にして、ロープの向こうから4本足の物体がリングに降り立った。
「…犬?」
「犬ね」
「…………」
2人は顔を見合わせた。
実際の外観は犬とは言い難いが、あの鳴き声で犬と判定された。
「犬と猿か…。 何考えてんだ?」
「でも、仲はいいようね」
ニックがナンシーに怒鳴る。
「おいっ!、レフェリー。 人型してないぞ!!」
「レギュレーション、ニハ、抵触、シマセン」
「なにーーーーーーっ!!」
そこへ美雪が口を挟む。
「せっかくあげた参加要項も読んでないのね…」
「なんだと?」
「うちはフランクだって言ったでしょ」
「フランク過ぎるぞっ!」
「人の土俵で文句が多い!!」
美雪が「がばっ」と立ちあがる。
「ポチっ!、構うなっ! そいつの喉かっ切ってやれっ!!」
「ばうっ!」
それを聞いてファニーは顔を押さえた。
「(あれ、「ポチ」って名前なのか…?)」
“ポチ”はEXIVの周りを「う〜」と唸りながら、ひたひたと歩いている。
時折「わうっ!」と威嚇など交える。EXIVは、正直戸惑っていた。
「(…どーやって戦うんだ?)」
当たり前だが、犬とは戦った事は無い。
既にディンキィからの情報で、四肢の爪がヒートナイフで、鋭く尖った牙には何か液体が仕込まれている事は判っている。
さらにディンキィは背中にも「何か」あると言っている。
EXIVは(実はニックも)判断に困って、とりあえず間合いを取っていた。
その時、ポチの背中が小さく「カキン!」と鳴ったのを、ディンキィの超高感度センサーは聞き逃さなかった。
その瞬間、ポチの背中の「何か」が何であるか判明した。
「伏せてっ!!」
ディンキィが叫んだ。
とっさにしゃがみこんだEXIVの側頭部を何かがかすめていった。
「なっ、何だ、今のはっ?!」
EXIVには感知できなかった。
ディンキィからすかさず情報が入る。
「直径6mmのプラスチック球。 推定重量約0.25g、初速60m/sec。発射媒体、代替フロン134a」
「BB弾っ…?!」
「これはまずいわね。 直撃すればヒビくらい入るわよ。 バレルは無いに等しいから滅多に当たらないと思うけど…」
「じょっ…冗談じゃないぞっ!!」
ニックが再びナンシーに怒鳴りつける。
「おいっっっ!!、飛び道具だぞっ!!!」
「レギュレーション、ニハ、抵触、シマセン」
「フランク過ぎるぞぉーーーーーーーーっっっ!!!」
これもまた、地方団体の恐怖…。
再びポチの背中がカキン!と鳴った(セーフティの解除音らしい。その後発射までに微かなタイムラグがある)。
「避けてっ!」
ディンキィの叫びと同時に横っ飛びするが、どう考えても弾の方が速い。
右上腕部がビシッと悲鳴を上げ、蜘蛛の巣を簡単にしたような亀裂が入った。
「くっ…、当たるじゃないか! 避けない方が良かったか?」
自問自答(?)するEXIV。
「ファニー!、装弾数はどのくらいだ?! なぜ事前に分からなかった?!」
ニックがファニーに怒鳴った。
それはちょっと八つ当たりにも見えた。
「側面からは手前の構造物で見えなかった。 正面からだけでは判別できない! 装弾数も判らないわ。 そんな怒鳴らないで!」
「くうっ…」
ニックは焦燥した。
攻撃するには接近しなければならないが、同時にBB弾の命中率は急上昇するだろう。
装甲ダメージを無視して接近しても捕らえる事ができるという保証も無い。
あの形態から、かなりの瞬発力が想像できる。
その時、ポチが「がうっ」と吠えながら飛びかかってきた。
EXIVは「しめたっ!」と思った。
1発カウンターを食らわす事ができる。
しかし、空中のポチの背中が再度「カキン」と鳴った。
距離が接近していた為、その音はEXIVにも届いた。
カウンターの体制に入っていたEXIVには避ける術はなく、BB弾が運悪くフェイスマスクに直撃した。
直後、遅れて顔をかばった腕にポチが噛み付いた!
「こいつっ…!。BB弾をフェイントに?!」
EXIVは何とかポチを振り払おうとするが、押しても引いても全く外れない。
凄い顎の力だ。
鋭い2本の犬歯が装甲を貫通しているのが分かる。
その時ディンキィの叫びが耳に入る。
「まずいわっ! 早くそいつを外してっ!!」
「なにっ?」
「歯から何か液体が注入されてる! 多分シンナーか接着剤…」
「……っ!!」
冗談ではない。
このままでは間違い無く、この腕は使用不能になる。
EXIVは体をよじって何とかエルボーやニーを打ち付けるが外れない。
ポチはEXIVの腕を使用不能にするまでは死んでも放さない気だ。
さらにその間のポチの四肢のヒートナイフによる創傷も馬鹿にならなくなってきた。
EXIVが「こいつはヤバイっ!」と思い始めたその時、不覚にも足を絡ませ転倒してしまう。
ちょうどポチがEXIVの上に覆い被さる格好になる。
「しっ…しまったっ!」
ポチは不意にEXIVの腕を放した、そして。
「がうっ!!」
EXIVの喉元目がけて口を大きく開く。
EXIVは腕で防ごうとするが、何と噛まれていた腕は既に満足に動かない! 首関節は装甲されていない!!
「くっ!!」
バキッ!!
激しいプラスチックの破砕音が響いた・・・。
to be NEXT.