オリジナル・ストーリー「PURE」

 

「PURE」13th

 

 深夜、ニックとファニーの2人は静岡工場に戻った。

 長谷の逆鱗に触れる覚悟だったが、それは杞憂に終わった。

 2人を待っていたのは思いも寄らぬ光景だった。

 2人の職場、静岡工場プラレスラー開発室。

 その中央の丸テーブルに累々と並べられた部品の数々。

 それは数時間前まで「ゼファードMKV ZX」であった物の成れの果て…。

 

 ― 第3章 「ZEPHERED BUSTER」 

 

 「ダンプにでも轢かれたのか?」

 ニックの開口一番。

 「んな訳ないでしょ」

 ファニーのつっこみ。

 しかしニックの気持ちも分かる。

 それ程の惨状だった。

 丸テーブルの周囲に呆然と立つ面々は、長谷、ニック、ファニー、その他スタッフが数人。

 そして男がもう1人、このZXのオーナー、名前はエディという。

 ニックと同様、社外準社員である。

 彼もまた眼鏡をかけているが、遊び人風のニックと対照的に、一見して真面目そうな技術者然とした風貌である。

 そのエディがニックに言った。

 「ニック…、信じられるか? それはプラレスラーにやられたんだぞ」

 「なに?」

 ニックの表情が一転して険しくなる。

 「今日ディンキィがね…、試合の後の傷だらけのEXIVを見て、「ここまでボロボロにされるのは、あんた(EXIV)とZXぐらいよね」って…。 でもまさか、ここまで…」

 ファニーが苦笑まじりに言った。

 「プラレスラーにやられたって? 試合中にか? なぜこんな事になるんだ?」

 「試合中は確かなんだが、実は対戦相手ではないんだ。 乱入者にやられたんだな、これが…」

 「!!

 テーブルに目を落としていたニックとファニーが同時に「がばっ!」と顔を上げ、エディの顔を凝視した。

 その2人の形相に、逆にエディのほうが困惑した声を上げた。

 「なっ…、なんだよ、2人して…?」

 「…乱入だと?……」

 「突然乱入してきた謎のプラレスラーが他のプラレスラーには目もくれず、あなたのZXを破壊して去って行った?」

 「そうだよ、よくわかったな。まあ、他のプラレスラーには目もくれない事もなくて、制止に入ったレフェリーや他の参加者にも被害が出てるがな。 ま、なんたって奴は……あ」

 エディが慌てて口を噤んだ。

 「なんたって奴は、何だって?!」

 ニックが険しい表情でエディに問い詰める。

 その視線に耐え兼ねたエディは長谷に助けを求める。

 「す…すいません、主任…」

 「いや、いい。 だからここに晒したままなのだ」

 その時、ニックが突然言った。

 「なんたって奴は“ゼクロスバスター”だからか?」

 これには長谷も驚愕した。

 「ニック、貴様どこで…?」

 長谷の問いにファニーが答える。

 「今日参加した団体の主催者が教えてくれたの。 こういう奴がいるから気を付けろって」

 「…そうか」

 「やはり知っていたんですか? エディも。 知らなかったのは私たちだけですか? なぜです? 私たちが遭遇する可能性だってあったはずなのに…」

 「よせ、ファニー」

 珍しくファニーが長谷にくってかかる。

 それをニックがなだめる。

 「会社の命令だ。 許せ、2人とも。 緘口令を敷き準社員を1名調査に派遣する。 この中で知っていたのは俺とエディだけだ。 しかし、その結果がこれだ!」

 長谷が「バンッ!」とテーブルを叩きつけた。

 周りの人間は皆、びくっと肩を縮めた。

 くどいようだが、長谷は怒ると怖かった。

 「この残骸は何だ? なぜここまで破壊する必要がある? こいつは一体何物だ?! わが社に恨みでもあるのかっ?」

 長谷が独り言のように怒鳴った。

 「本来ならこれは内密にせねばならんのだが、敢えてみんなに公開した。 意見を聞きたい。 これを見てどう思う? 奴は何物だ?」

 「エディ、ZXのメモリーは? なにかデータは抽出できなかったのか?」

 ニックがエディに訊いた。

 「だめだ。 メモリーなんかバラバラさ。 テーブルの上にZXの頭はあるか? 俺はZXの部品を、ほうきとちりとりで集めたんだぞ…」

 エディが唇を噛んだ。

 その時の心情たるや、想像するのも辛い。

 「パソコンには転送されてないか?」

 「そんな暇なかったさ」

 「?」

 ファニーが首を傾げる。

 「ほぼ一撃で戦闘不能。 その後数秒で動力停止。 ディンキィでもないかぎり、まともなデータなど取れんさ」

 「…なんてこった」

 そこへファニーが口を挟む。

 「それじゃ、映像記録も…無理ね」

 エディが無言でうなずく。

 「誰か周りでVTRでも回して…?」

 エディが無言で首を振る。

 「だぁ〜…。 何しに行ったんだ、おまえは?」

 「俺1人でどーしろってゆーんだっ!」

 エディとニックが睨み合う。

 「よせ、ニック。 エディ1人に行かせたのは会社のミスだ。 もっとも俺も相手がこれ程の化け物とは思ってなかったがな」

 長谷が静かに言った。

 その後しばらく沈黙が続いた。

 皆、頭の中であれこれと考えを巡らせている。

 日付は翌日に変っているが、そんなこと誰も気に留めない。

 しばらくして、ニックが口を開いた。

 「他のメーカーの挑戦じゃないのか? こう言っちゃなんだが、プラレスに関してはうちは成り上がりだからな。 快く思ってない所もあるんじゃ…。 メーカーのワンオフならディンキィ程じゃないにしても、これぐらいの性能は…」

 「全然違うわ、ニック。 相変わらず目が悪いわね」

 「なにおう!」

 あっさりとファニーに否定されるニック。

 「主任、これは私の勝手な想像なんだけど」

 「言ってみてくれ」

 「ここまで破壊する理由は…、さっき主任が言った通り“恨み”ね。 こいつ、私たちに恨みがある。 …私たち? そうか、こいつゼクロスバスターじゃない。 ゼファードバスター…? …私、なに言ってんのかしら…?」

 「なぜ、そう思う?」

 「…なんとなく、漠然とそんな気がする。 こいつのターゲットは量産機なんかじゃない…。 ゼファードを捜してる」

 誰も否定はしない。

 皆、ファニーの特性は理解している。

 信憑性がある。

 しばらく重苦しい沈黙が続く。

 その静寂を破ったのは長谷だった。

 「しかし、タイミングとしては悪くない。 明日でなくて良かった」

 「? どういう意味ですか?」

 エディが不思議そうに訊いた。

 「明日、NASDAとタブチから役員が来る。 “Sweet Devil”の定期報告だ」

 「なるほど…。 間違ってこんな物見られた日にゃ…。 「ヤマカワ」あたりに乗り換えられちゃかなわんからな」

 「いや、「イタチ」だろ。 あそこは元々NASDAにも“あっち”にも参画してる。 うちとタブチの関係が無けりゃ、どー考えてもイタチの方が適任さ」

 「そういう事だ。 という訳でファニー。 今日のディンキィの稼動レポートは明日の朝までだ」

 長谷が微妙な笑顔をファニーに向けて言った。

 「ひゃ〜…。 私ちょ…っと中座させて頂くわ。 コンピュータ室、空いてるかしら…」

 ふらふら〜っと部屋を退出するファニー。

 それを苦笑しながら見送るニックにも長谷が言った。

 「おい、ニック」

 「はい?」

 「笑ってる場合か? 今日の試合の報告書は誰が書くんだ?」

 「………」

 「試合の内容はどーだったんだ? まさか無茶はしとらんだろうな?」

 明らかに顔色の変ったニックが、逃げるように退出した。

 そのニックを見送った長谷がエディを呼びつけ何やら耳打ちをする。

 その内容にエディは思わず声を上げた。

 「えっ!! そ…それはまずいんじゃ…」

 「やむをえん。 ZXがあれじゃ、EXIVでも大差ないだろう。 まさか俺が行くわけにもいかん」

 「わ、分かりました。準備します」

 「頼む。 セッティングはストロングスタイルがいいと思う」

 「はい」

 エディは長谷に一礼して席を離れた。

 長谷は椅子に腰掛けると、天井を見上げて大きくため息をついた。

 「(…これが最善の策だ。 社命には反するが…)」

 長谷は自分に言い聞かせた。

 そして目の前のZXの残骸に目を移す。

 「(プラレスラーをこんな風に破壊するような奴を…、野放しにできるか!!)」

 長谷は椅子が倒れるほどの勢いで立ちあがり、無言で部屋を後にした。

 

to be next「intermission」

※註

「ゼファードMKV ZX」

 タヤマ初の市販プラレスラー「ゼクロス」の原型となった機体。第1話参照。ニックのEXIV同様、エディの手で実戦テストが行われている。タヤマが市販するパーツは前期型ゼクロス、後期型ゼクロスU両方に対応させる為である。

「NASDA」

 日本宇宙開発事業団(実在)。

「タブチ」

 国内唯一のモーターメーカー(ちなみに世界シェアでも70%を誇る)。タヤマとは旧知の仲。プラレスラーに使用するモーターは全社100%タブチ製。

「Sweet Devil」

 まだ内緒♪。タヤマ最高機密。登場は第5章(いつのことやら…)。

 

〜あとがき〜

 いきなりお詫び。前話のあとがきで「これでネタフリ終わり」と言いながら、今回もネタフリだらけになっちまいました。訂正してお詫びします。これで終わり、マジで。

 

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