オリジナル・ストーリー「PURE」

 

「PURE」14th

 

 「…ん……、くぅっ……、あんっ♪」

 深夜、シティホテルの一室。

 ファニーの喘ぎ声が聞こえる。

 言わなくてもわかってるだろーが、また“あれ”である。

 「もう…、どうしていっつもこの子は……、開かないのっ?!」

 肩で息をするファニー。

 おもむろに工具箱から大きめのドライバーを取り出すと先端の方を握り、言うことを聞かない塗料瓶を睨みつける。

 

 〜Intermission 1 (ファニー) 

 

 「悪く思わないでね」

 手首のスナップを効かせて、ドライバーの柄を瓶の蓋に打ちつける。

 ガンッ!

 バキッ!!

 「あ…」

 力加減を誤ったようだ。

 瓶の蓋はファニーの予想を大きく上回って破壊され、蓋の半分は瓶の口に残り、もう半分は凄いスピードでどこかへ消えて行った。(筆者註:これ私よくやります。これは最後の手段です)

 「確か…こっちへ飛んだよーな…」

 飛んだ蓋の半分を探して、部屋の中を動物園の熊のように徘徊するファニー。

 「……無い。…ま、いっかー」

 諦めの早いファニー。

 そそくさとテーブルに戻ると、

 「ス〜ペ〜ア〜ボ〜〜トル〜♪」

 意味不明の歌を歌いながら、スペアボトルを求めて工具箱を物色する。

 ふと、ファニーの動きが止まった。

 「…無い。……何てこと…」

 しばらく蓋が半分無い塗料瓶を呆然と見つめる。

 その中には、調合している内に瓶がいっぱいになってしまった程の苦心の作のお気に入りの色が顔を覗かせている。

 同じ色は2度と作れないかも知れない…。

 「あーもうっ! 私は九州にまで来て、何をやってるんだっ?!」

 テーブルを離れ、ベッドにうつ伏せに「ばふっ」と倒れこむ。

 しばらく枕を抱きながら、どーしたもんかと考える。

 「…ニック、まだ起きてるかしら…?」

 ファニーはキーを持って部屋を出ると、隣のドアを軽く2回ノックした。

 やや間があってニックの声が返ってきた。

 「ファニーか?」

 ニックはドアを開けながら訊いた。

 「よく分かったわね」

 「こんな時間に客が来るか?」

 「エディかも知れないでしょ?」

 「奴なら今頃は爆睡中さ。 よく寝る男だからな」

 ファニーは自分の部屋のように躊躇無くニックの部屋に入る。

 後ろでドアが静かに閉まる。

 「どうした、こんな時間に? 自慢の閨房術でも披露してくれるのか?」

 「あのね…。 そんなもの自慢になるかっつーの」

 ファニーが呆れたようにがっくりと肩を落とす。

 「スペアボトル借りに来ただけなんだけど…」

 「ほう、殊勝だな。 こんな時間まで仕事か?」

 そう言いながら背中を向け、工具箱に歩み寄るニック。

 「ここはシティホテルだぞ。 エアブラシはやめとけよ」

 スペアボトルを1個拾い上げると、ファニーに向かって放り投げる。

 「分かってるって」

 放物線を描いて飛んできたスペアボトルを「ぱしっ」っとキャッチする。

 「90円」

 ニックが手を前に出して言った。

 「…………」

 「冗談だ。 もちろん会社の備品だ。 まぁ、立ってないで座れ」

 ニックが先にソファーに座る。

 続けてファニーがテーブルを挟んで向い側のソファーに座る。

 そのテーブルの上には、組み立て中の市販の「ゼクロスU」の部品が並んでいる。

 実はニックのEXIVは、現在解体中である。

 もちろん、うっぴーとポチに受けたダメージの修理もあるが、実はもっと重要な意味がある。

 今回3人は「ゼファードバスター(先のファニーの発言以来、こう呼ばれている)」の調査に九州に来ているが、それにはEXIVの性能では対処できない可能性が高いため、急遽改良が施される事になった。

 しかもその改修箇所には「ゼファードMKX ジニアス」の予備パーツを流用するという。

 その工程には1週間程度かかる見込みの為、ニックは手ぶらでこの九州にやってきたのだ。

 もちろん、社内にはゼクロスUの完成品などいくらでもある。

 しかしそれを使用する事を良しとせず、自ら市販品を組み立てるあたりにニックの気質が伺える。

 「どう? 量産型は」

 ファニーがテーブルを覗き込みながら訊いた。

 「俺たちが開発してる物だ。 悪くない、…と言いたいところだが」

 「………」

 「同じ部品を同じセッティングで組んでも、いきなりEXIVと同じ性能は出んよ。 微妙なチューニングの差は出る。 それは実戦で叩き上げて蓄積する物だ。 はなから高性能なディンキィとは訳が違う」

 「そうね、分かるわ」

 「あ、すまん。 嫌な言い方だったな。 そんなつもりじゃ…」

 「ううん、解ってる。 それに、私感心していたの。」

 「感心?」

 「あなたって普段はちゃらんぽらんだけど…」

 「…悪かったな」

 「プラレスの事となると、まるで別人ね」

 「…買い被り過ぎだ。 好きでやってるだけさ」

 ニックはそう言うと、テーブルの上のZUの部品を手に取った。

 ファニーは久しぶりに頬が熱くなるのを感じていた。

 さっきは私の事を殊勝だと言ってくれたが、自分だってこんな時間までZUの組み立てをやっているではないか。

 恐らくは今晩中に組みたて、慣らしまで終わらせる覚悟だろうとファニーは見破った。

 たった1週間とはいえ手元に自分のプラレスラーが無い事が我慢できないというニックが、何だか愛しく思えた。

 「手伝うわ」

 ファニーは席を立つと、ニックのすぐ隣に座った。

 2人の肩と肩、膝と膝が触れる。

 しかし、これまでにも幾度と無く肌を重ねてきた2人にとっては、今更どうという事は無い。

 2人は黙々とZUの組み立てを始めた。

 深夜のシティホテルでプラレスラーを組み立てる男女…、異様な光景が続く。

 「ここ…、どうだったかしら?」

 ふと、ファニーがニックの方へ身を乗り出し、設計図に目をやる。

 その時、ファニーの開いた胸元から胸のふくらみが覗き、ニックは思わずそれに見入ってしまった。

 ニックの視線に気付いたファニーは、

 「…どこ見てんの?」

 「胸」

 「もう…、飽きるぐらい見てるでしょう?」

 と言いつつも、別に隠すでもないファニー。

 「いや、このちらっと見えるのが、また違った趣があるのだ」

 「相変わらずね…」

 ファニーは苦笑しながらもニックの膝に手を乗せ、体を寄せてくる。

 「? 珍しいな。 お前の方から…」

 「何言ってんの! あんたがしたいってゆーから…」

 「まだ言ってないぞ」

 「え。 そ、そう?」

 「ったく…。 そーゆー事にしといてやるっ!」

 「きゃっ!」

 ニックがファニーをソファーに押し倒す。

 そして2人は、いつものように互いを求めた。

 隣の部屋で大いびきをかいているエディの事など気にも留めずに…。

 テーブルの上には、両腕と両膝が接続されていないZUがちょこんと座っていた。

 しばらくしてテーブルが「がたん」と揺れ、「こてっ」と横に倒れるZU。

 その横の銀色の灰皿に、2人の絡み合う姿が映った…。

to be next.

※註

 「ゼファードMKX ZENITH」

 ゼファード5番機。門外不出と言われるゼファード最高機種。現在、フルモデルチェンジ機のテストヘッドとして開発続行中。第3話参照。完全なワンオフのため、その性能は量産型「ZU」とは次元が市販車とF1マシンぐらい違う。さしずめニックのEXIVはWRCのワークスマシンて所か。車が分からない人、ゴメンナサイ。

 「閨房」

 「けいぼう」と読む。婦人の寝室という意味。

 

〜あとがき〜

 一応、人間が主人公で、内容が大人のどろどろした世界ですので、こういうシーンもあってもいいかな?と思って入れてみました。2人の関係は企画段階からの決定事項です。こーゆーシーンは今後も何回か予定してます。

 14〜16話で2人の関係と、エディという新キャラの人間像を語っておきたいと思ってます。特にエディは登場期間が短いので(笑)…。

 

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