オリジナル・ストーリー「PURE」

 

「PURE」15th

 

 「私たちの関係って、何なのかしらね?」

 ファニーがニックの顔を見ながら言った。

 ニックは体を起こして煙草に火を点けながら答える。

 「みんなそう思ってるよ、周りは」

 「そーよねー。 説明難しいかも…」

 ファニーがニックのくわえる煙草に手を伸ばす。

 「いーじゃないか、別に。 いちいち説明する事か?」

 「エディが聞いたら何て言うかしら?」

 ファニーが悪戯っぽく笑いながら、ニックに煙草を返す。

 「真面目な男だからな。 理解できんだろう」

 「なぜ結婚しないんだとかゆーでしょーね」

 「勘弁してくれ…」

 「そりゃ、こっちの台詞よ。 あんたと毎日一緒なんて、気が遠くなるわ」

 「けど、セックスはする」

 「たま〜に、ね」

 「けど、一緒には居たくない」

 「3日が限度ね」

 「なんなんだ?」

 「さあ?」

 2人は口ではこんな事を言ってるが、ニックは自分の本当の気持ちに気付いていないだけかも知れない。

 一生を通して、これほど心を許せる相手はそう何人も現れないのに。

 そしてファニーは、そんなニックに自分の本当の気持ちが、言えない…。

 「でもね、ニック」

 ファニーが言った。

 「私はどーでもいーけど、彼女はどーするの?」

 「彼女?」

 「美雪ちゃん」

 「ぶっ!

 ニックはファニーから予想外の名前を聞き、くわえていた煙草を飛ばした。

 それを慌てて拾いに行く半裸のニックを横目にファニーは言った。

 「…忘れてたわね。 酷い人。 分かってたけど」

 「忘れてた」

 「彼女は本気よ」

 「う〜ん…」

 ニックはポリポリと頭を掻く。

 「私みたいな女はどーだっていーの。 それよりも、彼女みたいなPUREな子を弄んだりしたら、さすがの私も許さないんだから」

 「弄びゃーしない。 けどな、分かってんだろう? 俺の性格」

 「そりゃあ…」

 「それにな…。 お前はいいのか?」

 「なっ、何言ってんの!! わわ私はいーのよ。 私もあんたと同類で、そんなあんたが都合が良いだけなんだからっ!」

 ニックは基本的には切れる男だが、こういう事には本当に疎い。

 ファニーの本当の心が見えない。

 ファニーのぎこちない笑顔もニックには届かない。

 「そっか…。 ならいいんだ。 でもな」

 「なに?」

 「悪いが、今の俺はあいつの事を考えてる余裕は無いんだ」

 ニックがテーブルに目を移した。

 そして横に倒れていたZUを起こしてやる。

 そのニックの顔は、いつに無く真剣だった。

 「…そっか。 そうよね。 ごめんなさい」

 ファニーは後悔した。

 ニックの言う通りだ。

 今の我々には使命があった。

 それなのにニックに余計な事で頭を悩ませてはいけない。

 しばらく2人は無言でZUを見つめた。

 もう2人の頭の中には“ゼファードバスター”の事しか浮かんでいない。

 「ファニー」

 「なに?」

 ニックが部品を1つ拾い上げながら言った。

 「今回はしばらく帰れんぞ。 奴にそう都合良く会えるとは思えん」

 「分かってる。 でも、そんなには長引かないわ」

 「なぜだ?」

 「鬼ごっことは違う。 奴も我々を捜してる。 必ず会えるわ」

 「なるほど、道理だな。 しかし、なぜ九州なんだろう?」

 「それは分からない。 でも、直接静岡に乗り込んでくる程、馬鹿では無いという事ね」

 「あるいは、タヤマには俺たちのような人間がいて、地方に出没する事を知っているとか」

 「知っていて私たちを誘っているとか」

 「くそっ、分からん事だらけだ。全て推測の域を出ん」

 「直接本人に訊けばいい事よ」

 「簡単に言う…」

 「操縦者に会えるかは分からない。 けど、そのプラレスラーだけは何としても捕獲するわ」

 ファニーがテーブルの上を見つめながら言った。

 その表情は怒りに近かった。

 「プラレスラーをあそこまで破壊するなんて、私は許さない。 必要ならディンキィのリミッターを解除してでも…」

 「いや、それはまずい。 主任にも強く言われてる。 相手の能力が分かるまではディンキィは索敵だけだ」

 「こんな言い方は良くないけれど、市販のZUでどうにかなる相手じゃないわ」

 「分かってる! 今度潜入する団体の大会までには、俺のEXIVが届く。 ジニアスとまではいかなくても、かなりの性能になるだろう。 十分対処できる」

 「その前に出会ったら?」

 「…何とかする。 こんな所でディンキィの封印は解いてはいけない。 今まで色々な敵と戦ってきたが、今回の敵は危険と思える」

 「ニックこそ心配しすぎ。 ディンキィが試合に負ける事はあっても、心臓部が損傷するほどダメージを与えるなんて、プラレスラーには絶対無理」

 「万が一だ。 ディンキィになにかあったら、それこそタヤマだけの問題じゃなくなる」

 「……わかってる」

 2人は黙り込んでしまった。

 重苦しい時間が流れた。

 「……今日はもう寝よう、ファニー。 続きは明日でいい」

 「うん……」

 「久しぶりに隣で寝るか?」

 ニックが冗談っぽく言った。

 この暗い雰囲気のまま別れるのがためらわれた。

 ファニーも、そのニックの心情を察して笑顔で答える。

 「遠慮しとく。 夜中にエルボー食らうのは、もう勘弁だわ」

 「そんな事あったか?」

 「今度VTRセットして、自分の寝相確認した方がいいわ」

 ファニーは立ちあがると、乱れた衣服を整える。

 「明日は何時?!」

 「エディには9時と言ってあるから、10時にフロントだな」

 「OK。 それじゃ、ニック。 ちゃんと寝てね」

 「ああ」

 「おやすみ♪」

 ファニーは廊下に出て歩きながら考えていた。

 ニックには寝るように言ったが、恐らくは寝ないだろう。

 やっぱり手伝った方が良かったかしら?

 そんな事を考えながらしばし自室の前で立ちつくす。

 「…ま、いっか」

 ノブにキーを挿入し、ドアを開けた。

 その途端に嗅ぎ慣れたシンナー臭が鼻をついた。

 「ああっ! し、しまった!!」

 慌ててテーブルに駆け寄るファニー。

 蓋が半分飛んだままの塗料瓶を放置したままだった。

 「もうっ! ニックのせいよ! スペアボトルだけ貰ってくるつもりだったのに…」

 窓を残らず全開にしながら、先程のニックとの行為を回想する。

 「……ま、ニックのせいだけにしたら悪いわね」

 1人苦笑するファニー。

 スペアボトルに塗料を移し終えると、ハンドバッグの中からお気に入りの香水を取り出し部屋中に噴霧する。

 「やっぱ、シティホテルでシンナーはまずいよね。 でも、いい香り…。 さすが、いい香水は違う………。 はっ!

 ファニーは重大な事を思い出し、残りわずかになった香水の瓶を見つめた。

 その購入価格を思い出すと、目眩を覚え「ふらふら〜」とその場にしゃがみこんだ。

 ZUのフルセットも軽く購入できる価格を空中に噴霧してしまった。

 「わ、私は九州にまで来て何をやってるんだ〜〜〜…」

 床をばんばんと叩きつけるファニー。

 「ニックのばかぁ〜っ!!!」

to be continue「ZEPHERED BUSTER」

 

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