「PURE」16th
シティホテルの1階フロント。ニックとファニーの2人が向かい合わせにテーブルに掛け、朝のコーヒーを嗜んでいた。
横から差す直射日光が、ニックの燻らす紫煙の動きを映し出していた。
「…いい天気ね」
ファニーが目を細めながら言った。
それに対しニックは、
「訊き込み日和だな」
軽く「カクッ」とコケるファニー。
「嫌な日本語ね…」
「雨の中、傘を差して歩き回るなんて御免だ。今日のスケジュールは?」
「ちょっと待って」
ファニーが膝の上に置いたハンドバッグから本皮製の黒い手帳を取り出すと、ペラペラとページをめくる。
「まず、市内で模型販売店への訊き込みが5件。大学のサークルが1件。地元の愛好会が1件。その後××市へ移動…」
「…タクシー、チャーターできんかな?」
「そんな経費下りる訳ないでしょ。目的地の位置、交通機関のアクセス、全部エディが事前に調査済みよ」
「まめな男だ」
「でも助かるわ。私たちがそーゆー事苦手だって、主任も解ってる。それに何たってエディは1度奴に遭遇してるんだから。彼の体験は大いに役に立つわ」
「しかし、なんてこった…。今や花形と言われるプラレスラーメーカーが、足で訊き込みとは…」
ニックがそう言いながら苦々しい顔で煙草を消した時、横から男が視界に入ってきた。
エディだ。
「すまん。待たせたな」
「よう、エディ。この電話、盗聴されてるぞ」
「?。何の事だ?」
「知ってる人だけ笑ってくれればいいんだ」
「???」
しきりに頭をひねるエディに、ファニーが笑いながら言った。
「でも、今日は早いのね、エディ」
「いや、随分遅れたが…」
「お前が朝に弱いのは分かってる。だからお前には1時間早い時間を教えておいたのだ」
「…………」
やるせない表情のエディ。
「それにしても、エディ。あからさまに起き抜けね。凄い頭よ」
「えっ、そうか?。実はまだ鏡も見てないんだ」
「でしょうね〜」
「そんなに凄いか?」
エディが頭を押さえながらニックに聞いた。
「ああ、まるでキルリアン写真だ」
「ぷっ」
ファニーが思わず吹き出す。
「…………」
「冗談だ。せいぜいパイナップルって所だ」
「…手洗いに行ってくる。待っててくれるか?」
「是非そうしてくれ」
「コーヒーもまだ残ってるから、ごゆっくり〜♪」
トイレへと背を向けたエディに、ニックとファニーが声をかける。
「顔も洗えよ」
「歯も磨いてね♪」
「宿題やったか〜?」
「ドリフターズか?、お前らはっ!!」
エディは逃げるように、チェックアウト前の自室に戻る。
暫時この話題で談笑するニックとファニー。
しばらくしてエディが身支度を整えて戻ってきた。
手に缶コーヒーを持って。
「お待たせ」
「…何だ、その缶コーヒーは?」
「いーじゃないか。俺にもコーヒーぐらい飲ませろよ」
「そーじゃない。このコーヒーカップが見えんのか?。そこのラウンジは何の為にある?」
「いや、俺は缶コーヒーが好きなんだ」
「………」
「本当はWANDAのブルマンが今1番のお気に入りなんだが無くてな。でもこのJiveのシルバーもなかなか……」
ニックは呆れた。
自宅では豆を挽いてドリップしているニックには分からない感覚だった。
エディは空いている椅子に腰掛けると、いかにも幸せという表情で缶コーヒーをすする。
ちなみにエディは煙草はやらない。
「さて、行くか」
「そうね。いい時間だわ」
ニックはエディを無視して席を立ち、ファニーもそれに呼応した。
「お、おいっ。待てよ〜」
「缶コーヒーなぞ、歩きながらでも飲める」
「そんな、TVのCMじゃあるまいし…」
その時エディはニックが手にしたケースに気が付いた。
プラレス関係者なら一目でそれと知れる、いつものケースだ。
「おい、ニック。そのケースは何だ?」
「ZUだ」
「呆れたな。1週間待てんのか?」
「待てんな。その間に奴に出会ったらどうする?。いきなりディンキィをぶつけるのは危険過ぎる」
「う…む。確かに、あの破壊力は異常だ…」
「そういうお前の横に置いてある物は何だ?」
エディの腰掛けた椅子の横にも同じケースが置かれている。
「お前のZXもまだバラバラのはずだが、何が入ってる?」
「これは…」
「何だ?」
「し、私物だ」
ガクッ!。
ニックとファニーの2人は、それこそコントのようにコケた。
「何でそれに私物を入れて持ち歩くのよっ!!」
「他にバッグとか持ってないんだ、俺…」
あまりにもエディらしい生活習慣だった。
*********************
―――この後、3人は聞き込みをしながら各地を転々とした。
聞き込みでは風評以上の事実は得られなかった。
被害に遭った団体でも、エディの目撃談を上回る証言は得られなかった。
地方の小団体のため、鮮明な映像記録が残されていないのも痛恨事だった。
それでも、この聞き込みによりエディの報告の裏付けは取れた。
身長は30数センチ。
ヘビー級としては大型。
色は濃い紺色。
長い金髪と背中の羽根が特徴。
凄いスピードとパワーを両立し、並みのプラレスラーやレフェリーなどは一撃で戦闘不能状態にまで破壊される。
そして目標とされたゼクロスに至っては、執拗なパンチキック攻撃が続き、全身がバラバラにされるまでそれは続くという。
3人は各地の大会を転戦し、「ゼファードバスター」の現れるのを待った。
ニックのZUも改修前のEXIVに接近する性能まで熟成が進んでいた。
改修の終了したEXIVも届いた。
その性能はニックも驚愕するものだった。
恐らく“ディンキィ”に比肩する性能だろう。
EXIVに使用されたパーツとその諸元を見たニックは、戦慄した。
もはや、プラレスラーなどという規格は完全に無視されている。
モーターやケーブルには電気伝導率の高い純金などが惜しみなく使用され、フレームや装甲にはアルミ鋳造やチタン削り出しなどの高価な高剛性の金属がふんだんに使用されている。
改修に使用されたパーツの製造原価だけで軽く数百万円に達し、一般ユーザーが手に出来るレベルを遥かに凌駕してしまっていた。
それは、この件に対するタヤマの危機感を感じさせた。
実際、この九州ではゼファードバスターの噂が広まり、ゼクロスの売上は激減していた。
しかし、これ程の性能が必要なのか?というのがニックの率直な見解だった。
同時に、ジニアスというプラレスラーは一体何の為に開発されているのだ?という疑問も沸いた。
しかし、肝心の「ゼファードバスター」は現れなかった。
3人の転戦は九州を脱し、中国四国に及んだ。
―――
その日は、雨だった。
季節はずれの雷鳴が轟いていた…。
to be next.
〜あとがき〜
今回はちょっと難しいネタが続きました。
分からない方、ごめんなさい(特に若年層の方)。
聞き流して頂いて結構です(笑)。
同人誌のノリになってきたかも…。