オリジナル・ストーリー「PURE」

 

「PURE」19th

 

 ――――ハヤテが舞う。

 バキッ、ガキッ、メキメキッ…

 時折鳴る雷鳴に混じり、嫌な音が聞こえる…。

 ハヤテの、四肢を駆使した連続打撃が間隙無く的確にメルクリウスを捕らえる。

 反撃する暇など微塵も無い。

 「くっ…」

 エディが必死にキーボードを叩く。無駄だと解っていても…。

 ハヤテの連続攻撃は、まるでダンスのように見えた。

 リズミカルに、規則正しく、上の次は下、右の次は左、既に自立する力も無いメルクリウスだが、ダウンする事もできない。

 あらかじめ攻撃方法、攻撃箇所、破壊する箇所の順番までが定められた無駄の無い的確な一連の動作。

 それにはゼファードの構造を熟知していなければ無理だ。

 これは、ただゼファードを破壊する為だけの恐怖のプログラム。

 ベキッ、バキバキッ…

 ハヤテは舞う。

 見る者の心を奪う、壮絶な舞。

 ハヤテが狂喜しているのが分かる。

 メキャッ、グシャッ…

 ハヤテは舞う。

 一人ではない。

 メルクリウスも舞う。

 ハヤテに合わせるように、ハヤテに操られた人形のように…。

 メルクリウスの各部から飛び散るオイルが、返り血のようにハヤテを染める。

 メルクリウスの細かな破片が、飛び散る汗のようにきらめく…。

 それらを受けて、ハヤテの表情は更に恍惚さを増す。

 長い髪を振り乱し乱舞するハヤテ。

 恐ろしいはずの光景が、なぜか美しく映る…。

 メルクリウスが崩れ去っていく。

 1つ、2つと部品が足元で跳ねる…。

 ―――

 「…ニック!」

 ファニーが涙声を上げる。

 「構うな!。 分析には好都合だ!」

 「そんなっ…」

 ファニーはそこまで言ってやめた。

 ニックの腕が小刻みに震えているのが分かった。

 ニックも堪えているのだ。

 この数週間、手塩にかけて育て上げたメルクリウスがわずか数分でジャンクと化す様を、その最期を見届けていた。

 ディンキィの分析の為に…

 エディは、いつしか呆然としていた。

 やがて、思い出したように震える手でパソコンの電源を落とした。

 「すまん…、ニック…。 離脱する事も出来なかった…。 メルクリウス程の性能を俺は…」

 「…気にするな。 所詮、現地調達だ」

 「しかし…」

 その時、ニックのパソコンがEXIVのセットアップ完了を告げた。

 「安心しろ。 借りは返すっ!!

 ニックがEXIVを強く握りしめた。

 「エディ、お前は奴の操縦者を捜せ。 ファニー、逆探知は?!」

 「電波発信源は建物の南側、距離約200メートル、誤差は半径10メートル以内。 裏の駐車場だわ!」

 「気をつけろ!、頭のイカレた野郎だ。 発見しても様子を伺うだけでいい。 人相でも確認できれば充分だ。 間違っても一人で捕まえようなんて思うな!」

 「分かった!」

 エディは手で合図すると、廊下を反対側へ走って行った。

 走り去る間際、ニックに何か声をかけたようだが、既にニックの耳には届かなかった。

 ニックは前方の戦場を睨みつけると、そこへ向けEXIVを思いっきり投げつけた。

 「EXIV、セットアップ!。 GO!!」

 ―――

 メルクリウスにとどめの一撃、強烈なアッパーが入った。

 メルクリウスの頭部はバラバラの破片となって天井に撒き散らされ、体は糸の切れた操り人形のように崩れ落ちた。

 ハヤテの周りに転がる物はプラレスラーではなく、プラレスラーの部品でしかなかった。

 ハヤテの舞が終わった。

 背中の羽根と手足のランダムスレートが静かに閉じる。

 そのハヤテの周りにメルクリウスの頭部の破片が降り注ぐ。

 「……モウ1機イタカ…」

 背後に立つEXIVに気付いたハヤテがゆっくりと後ろを振り向く。

 仁王立ちに立つ、真っ赤なプラレスラー。

 深紅に再塗装されたEXIV改。

 見慣れない新パーツ、あからさまな増加装甲、重量増に伴う推力増強、恐竜的進化を遂げたEXIV。

 EXIV(Expansive Infinite Variation)の名の真骨頂がここにあった。

 ニックの怒りを再現したかのようなその姿は、見る者を圧倒させるだけの迫力に満ちていた。

 しばらく2機は無言で対峙した。

 「…………」

 「ドウシタ…。 カカッテコナイノカ?。 コノ“ガラクタ”ハ仲間ナノダロウ?」

 ハヤテが足元に転がるメルクリウスの額当てをEXIVに向けて蹴った。

 EXIVの脚に命中したがEXIVは微動だにしない。

 「…ゼファードバスター、か。 これまでに何機の兄弟をその毒牙にかけたのだ?」

 「知ランナ。 数エタ事ハ無イ」

 「操縦者は誰だ?。 何が目的でこんな馬鹿げた事をする?」

 「俺ヲ倒セバ分カル」

 「では、そうさせてもらう」

 EXIVが一歩前へ出る。

 「安物ガ、何機デ来ヨウガ無駄ナ浪費ダ」

 「安物かどうか、その体で確認するがいい!

 EXIVが床を蹴った。

 後から弾かれたような凄まじい加速度だった。

 ガシィッ!!

 2機が互いの手を取り、力比べに入った。

 徐々にハヤテの上体が後へ反り返る。

 「ナニッ!。 コ、コノPower…。 オマエハッ?」

 ハヤテが驚嘆の声を上げる。

 「貴様のお望みのゼファードさ。 量産機のプロトタイプで申し訳無いが、皆忙しいのでな」

 「ソ、ソウカ。 オマエガ「ZECROSS−U」ノPrototype、MKZ−EXIV…。 シカシ、コノPowerハ…」

 「貴様の為に特別な改修を受けている。 貴様の悪行もここまでだ」

 ハヤテはついに片膝を地に付く。

 先程あれほどのパワーを見せつけたハヤテをEXIVがパワーでねじ伏せる。

 「馬鹿な奴だ。 ちょっとわるさが過ぎたようだな。 タヤマが本気で貴様の排除に動くとは思ってもみなかったか?」

 「…思ッテイタサ」

 「なに?」

 「俺ハ、ソレヲ待ッテイタノダカラナ!」

 「!!」

 ハヤテの膝が再び浮き上がる。

 徐々に体勢を立て直すハヤテ。

 「ば、ばかな…」

 「オマエノ、ソノPower。 「ZENITH」ノ部品ガ流用サレテイルナ?」

 「なにっ?。貴様、その名をどこで?!」

 ついにEXIVとハヤテの体勢が入れ替わる。

 「俺ハ待ッテイタ、コノ時ヲ。 オマエヲ倒シテ証明スル!。 俺ノ存在ヲ!!

 「くっ!」

 たまらずハヤテにモンキーホイップを仕掛けるEXIV。

 さすがEXIVと言える見事な切り返しで綺麗に決まり、ハヤテの体は廊下の壁へ叩きつけられる!。

 と思った瞬間、ハヤテは空中でエアノズルを使用して体勢を入れ替え、壁に着地(?)する。

 さらに、ハヤテを追うべく立ち上がったEXIXへ向け壁を蹴って跳躍、EXIVの喉元へフライングクロスチョップ!!。

 「ぐわっ!」

 逆に壁に叩きつけられるEXIV。

 さらにハヤテの鋭い爪がEXIVの顔面に迫る!。

 「!!」

 ガシッ!

 かろうじてハヤテの腕を両手で捕らえるEXIV。

 「フッフッフ、イツマデ耐エラレルカナ?」

 「ぐっ…」

 ハヤテの鋭い爪の付いた指がEXIVの顔の目の前でクキクキと妖しくうごめく。

 EXIVの腕の各部のモーターから焼けた匂いが漂う。

 「ば、馬鹿な…。 このパワー、プラレスラーの物ではないっ…!。 貴様は一体?!」

 「フッフ…。死ネッ!!」

 ガキッ!!

 ハヤテの爪がEXIVの顔のすぐ横、壁のコンクリートに突き刺さる。

 何とかハヤテの腕を横にそらす事に成功したEXIVは大きくジャンプし、とりあえず距離を取る。

 「貴様モ逃ゲルノハ、ウマイヨウダナ…」

 ハヤテの手首が壁に埋まっていた。

 それを見たEXIVは、あれが自分の頭だった場合を想像し恐怖した。

 その時、EXIVの腕と肩の装甲の一部が開き、強制冷却が始まる。

 開いた装甲から冷却に使用した白いガスが噴出する。

 「ホウ…。 サスガZENITHノ部品ヲ流用シテイルダケノ事ハアル。 色々ト装備サセテモラッテイルヨウダナ」

 ハヤテが壁から手首をズルッと引き出す。

 その手首はコンクリートに突っ込んだにもかかわらず無傷だ。

 「化物め…。 貴様、何者だ…?」

 「俺ヲ倒セバ分カル」

 「…………」

 「クックックッ。 今度ハ、ソウサセテモラウ、トハ言ワンノカ?」

 「…っ!」

 「クハハハハ!、愉快ダ!。 ゴテゴテト装備ヲ固メテ、俺ヲ倒セルツモリデイタノダロウ?!。 ドウダ?、絶望シタカ?。 俺ハ誰ダ?、俺ハ、貴様ラヲ破壊スル為ダケニ創ラレタ、ZEPHERED−BUSTERダッ!!

 EXIVに戦慄が走る…。

 ―――

 「ファニー…」

 ニックが力無くファニーに訊いた。

 「…………」

 「ファニーっ!!」

 「…ダメ……、私、信じられない…」

 ファニーがうつむいたまま首を横に振る。

 「私たち、とんでもない事に巻き込まれてる…。 今のEXIVは、もはやプライベータ―(一般参加者)が太刀打ちできる相手では無いわ!。 あいつは一体どこのワークス(メーカー直営)なのよっ!。 なぜこんな事をするの?。 なぜ私たちがこんな目にっ!!」

 「…分析結果を教えてくれ」

 「腕力、握力、背筋力、脚力、機動力、瞬発力、装甲耐久力、測定できた全データでEXIVを上回る…。 今、使用されてるパーツ1つ1つを鑑定中。 ひょっとしたらメーカーを特定できるかも知れないけど…。 EXIV…負けるわ……」

 「舐めるな…」

 「えっ?」

 ファニーはびっくりしてニックを見た。

 「プラレスはスペックじゃない。 スキルだ!。 俺は今までそれでONDAやイタチとも渡り合ってきた!。 見てろっ!!」

 ニックはいつに無く興奮していた。

 それが焦りの表れである事はファニーには一目瞭然だった。

 ファニーは黙ってうつむき、かつてのニックの言葉を回想する。

 …今度のEXIVはZENITHとまではいかなくても、かなりの性能になる。 十分対処できるはずだ…

 「(ニック…。 その性能、役に立たなかったね…)」

 ――― ディンキィは微動だにせずに、ハヤテを観察していた。

 いや、睨みつけると言った方が適切だろうか。

 「……EXIV」

 ディンキィの指先が「ぱちっ」と小さく放電した。

to be Next.

 

【APPENDIX】

 

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