オリジナル・ストーリー「PURE」

 

「PURE」21th

 

 「納得いきませんっ!」

 ダブルエックスの担当者「河田」が、タヤマプラレスラー開発部主任「長谷」に詰め寄る。

 ここはタヤマ静岡工場、地上5階(現在は地下3階)のプラレスラー開発室内。

 当時はまだ新入社員のニックは、河田が机を叩きつける音に仰天したものだ。

 「落ち着け、河田君。 これは会議で決定した事だ。 変更は無い」

 毅然と答える長谷。

 その凛とした態度には揺るぎ無い意思を感じる。

 「し、しかし…、自分は」

 「試作機3機のコンセプトを提示したのは私だ。 君はそれに忠実にダブルエックスを製作してくれた。 ダブルエックスに問題があるのは私のミステイクであって、君には一片の責任も無い」

 「それでもダブルエックスを作ったのは私です!。 責任は無くとも、このままでは自分の能力を疑われます!」

 食い下がる河田。

 「試作機3機の内、採用は1機だ。 誰も君の才能を疑いはしない。 それどころか君がダブルエックスで提示してくれた新技術には我々も驚いている。 今は不完全でも君が研究を続行してくれれば会社にとっても有益だ」

 「ならば尚の事、ダブルエックスを採用するべきです!。 そして集中して開発を…」

 「河田君っ!!」

 「っ!!」

 長谷が声を荒げた。

 興奮気味だった河田も、一瞬にして身を縮める。

 「河田君…。 これは私の一存ではない。 会議での決定だ。 私にも上層部の決定をくつがえすような権限はないのだ」

 「し…しかし、データ上のスペックだけで優劣を決定されては…。 それも動いてる所を見た事も無いような上の人間に…」

 「………では、こうしよう。 ジニアスとダブルエックスの模擬戦を行ってみよう。 その結果次第では、私も上申する手続きを取ろう」

 こうしてジニアスとダブルエックスの、最初で最後のたった1度の試合が行われた。

 その結果は、ジニアスの圧勝だった。

 ダブルエックスのジニアスを上回るパワーとスピードも、ジニアスの運動性とテクニックの前に無残に敗れ去った。

 その試合を観戦した関係者全員が、ジニアスのスタイルこそ次期ゼクロスに相応しいと判断した。

 そしてダブルエックスの開発の凍結が決定した。

 「………もう少し、…もう少し運動性があれば…………」

 この試合後の河田の呟きが、その後の盗難事件、更にその後続く日本中を震撼させる大事件に発展すると一体誰が想像できようか?。

 ―――

 グシャッ…

 ハヤテの“ゼファードスープレックス”。

 それを拒む物は何も無かった。

 両手、片足を封じられては、たとえ万全であったとしても受身など取れるはずも無い。

 颯爽と立ち上がるハヤテ。

 ピクリとも動かないEXIV。

 勝敗は決した…。

 「くそっ…。 どういうつもりだ、河田の奴っ!!。 ダブルエックスが相手じゃ、EXIVをどんなにいじったって、かなう訳が無いじゃないかっ!!」

 ニックの怒りの矛先が、ダブルエックスと共に姿を消したダブルエックスの担当者「河田」に向けられる。

 それがひどく見当違いであることも気付かぬほど取り乱している。

 しかし、ファニーは冷静だった。

 「なに言ってるの、ニック?!。 河田さんは死んだわ。 主任も葬儀に参列してきたじゃない!」

 「じゃあ、あれは何だ!?。 河田の怨念だとでもいうのか?」

 「冷静になって、ニック。 ちょっと考えれば分かる事よ。 河田さんはもういないわ。 今あのダブルエックスを運用しうるのは、河田さんを懐柔してダブルエックスを持ち出させ、その挙句河田さんをダムに沈めた犯人に決まってるじゃないっ!!」

 「!!

 ニックの顔から血の気が退いていく。

 「落ち着いて、ニック。 あなたなら冷静な判断ができるはずよ」

 「…………」

 ニックの顔がいつもの、それでいて真剣な表情に戻る。

 ゆっくりと顔を向け、じっと戦場をみつめる。

 ハヤテが高らかに笑っている。

 その足元には機能停止寸前のEXIVが横たわる。

 そしてそのEXIVにディンキィが駆け寄った。

 ―――

 「エ…EXIV…、返事できる…?」

 ディンキィがEXIVの傍らに跪いた。

 すぐ横のダブルエックスなぞ眼中に無い。

 「…ディンキィ…か?」

 EXIVの首がわずかに動いた。

 「ごめんね、EXIV。 間に合わなくてごねんね…!」

 ディンキィがEXIVの頬に自らの頬を摺り寄せた。

 その横でハヤテが2機の行為を、ひどく滑稽な物を見るように見下していた。

 「おまえ…、また勝手に動いたな…?。 いつもは俺が止めてたが、今日は止められなかったか…」

 「いいのよ。 気にしないで」

 「良くは無い」

 「いいの。 いつも言ってるでしょう。 あなたが馬鹿にされて黙っていられる程、お上品ではないって。 命令なんてクソ食らえよ」

 「ディンキィ…」

 「後は私に任せて…、あなたは休んでいて…。 すぐ済むわ」

 ディンキィがスッと立ち上がった。

 その表情はまだ穏やかだったが、EXIVは背筋が冷えるのを感じた。

 もう誰もディンキィを止められない…。

 「ディンキィ、1つだけ言っておくが…」

 「解ってる。 大丈夫、通常の戦闘モードで十分よ」

 「…そうか」

 「見てて、仇取ってあげる」

 ディンキィが優しく微笑む。

 しかしそれは悪魔の微笑み…。

 その時、ディンキィの背後から笑いが聞こえた。

 「クックック、オ別レハ済ンダノカ?」

 ハヤテが、腕を組んで笑いながら言った。

 「お別れ?。 何の事かしら?」

 ディンキィは振り向きもせず言い返す。

 「ソコノ“ゴミ”ニサ。 チャント、オ別レヲ言ッタホウガイイゾ。 モウ会エンカラナ」

 声を殺して肩で笑うハヤテ。

 「そうね…。 あんたの言う通りだわ」

 ディンキィがクルッと後を向き、まっすぐハヤテの目を見つめて言った。

 「さようなら。 久しぶりの再会だけれど、もうお別れなんて残念ね」

 ハヤテの笑いが止まった。

 「…ドウイウ意味ダ?」

 「あんたの言う通り、ゴミにお別れの挨拶よ」

 「…キサマ、コノ俺ガ“ゴミ”ダト?。 サッキカラ俺タチノ戦イヲ見テイタヨウダガ、ソノ上デ、コノ俺ニ挑ムトイウノカ、ソンナ小サイ体デ?。 一体、何様ノツモリダ?。 ソレトモ、タダノ馬鹿ナノカ?」

 これを聞いたディンキィはクスクスと笑った。

 そして、

 「私を倒せば分かるわよ♪」

 先程ハヤテがEXIVに放ったセリフを、今度はディンキィがハヤテに使った。

 このディンキィの一言がハヤテの逆鱗に触れた。

 「キッ、キサマァッ

 ハヤテは腕を振り上げ、ディンキィの首に掴みかかる。

 「ふふっ♪」

 ディンキィはそのハヤテの腕を横殴りにバシッと掴んだ。

 そしてそのまま野球のピッチャーのフォームでハヤテを背後の壁に叩きつける!。

 ベキッ!

 「グワッ!!」

 ハヤテの背中の羽根とシタビライザーが折れて飛び散った。

 内1枚がEXIVの顔をかすめる。

 ディンキィはスッと髪をかき上げ(癖)、手の平をパンパンとはらった。

 ハヤテの機体はずるずるっと壁から滑り落ち、ハヤテを追うようにコンクリートの粉がハヤテに降り注いだ。

 壁は表面が剥がれ、亀裂が入っていた。

 「ウ…グ…。 バ、馬鹿ナ…、ソンナ馬鹿ナッ!!」

 床に這いつくばうハヤテ。

 ボディのダメージも大きいようだ。

 ディンキィは、友人と待ち合わせた少女のように楽しげにハヤテに駆け寄る。

 そして、

 「んふっ♪」

 どかっ!

 ハヤテの手の甲を踏みつけた。

 ぐりぐりぐりっ…

 「グワアァァッ!!

 悶絶するハヤテ。

 「痛い?。 ねぇ…、痛いの?。 うふふふ」

 ディンキィの表情が高揚する。

 ハヤテは何とかディンキィの足を振り払おうと、もう一方の手を伸ばすが、

 バキッ

 その手もディンキィのもう一方の足に踏まれる。

 「くすくすくすっ。 あははははっ、キャハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ

 ―――

 ディンキィの戦闘モード。

 ディンキィがディンキィでなくなる一瞬の間。

 そのアルコールの入った女性のような艶っぽい仕草が、ただひたすら恐ろしい…。

 しかも、これがディンキィの性能の全てではない。

 ディンキィの中の“優しい悪魔”が微笑んでいるうちは、まだマシなのだ。

 図らずもディンキィに付加された、その圧倒的な性能。

 もはやプラレスラーの域に無いハヤテですら、ディンキィの前では木偶(デク)と化す。

 こんな物がプラレスラーと偽ってリングに立っていい訳は無い。

 この事実を、これまでの対戦相手が知ったらどんなに激怒することだろうか?。

 ――― 

 「ガアアアァッ!!

 手を踏み潰されたハヤテが絶叫する。

 その絶叫を聞いて、ディンキィは思わず身震いする。

 「あふっ…、あぁん…」

 快感がディンキィの背筋を這い上がる。

 ドキャッ!! 

 ディンキィがハヤテの眉間をトゥキックで蹴り上げる。

 ハヤテはさっき叩きつけられた壁に再度叩きつけられる。

 「グハァッ!!」

 「うふふふふ…、あははははっ」

 両手を口に当てて笑うディンキィ。

 「ガハッ…。 オ、オマエハ…一体…?」

 「ふふふ。 そーよねー。 私もあんたの事、わかんなかったもんね。 あんたが私の事、分かる訳ないわよ、ねぇー。 んふふっ」

 ディンキィが、その肩アーマーをハヤテに向けて見せた。

 「くすくす、まだ目は見えて?」

 ハヤテが、その肩アーマーを凝視した。そこに刻まれた小さなアルファベットは…、

 ―ZEPHERED MKY ED―

 「…………ソンナ…」

 ハヤテが凝固した。

 ――― 

 「ふえぇぇぇ…、ビビったぁ〜…」

 エディが建物の影で小さく丸まっていた。

 先程の今日一番の落雷を目の前で体験したのだ。

 恐る恐る体を起こすエディ。

 彼の視界には、ポツンポツンとまばらに車の止まっている駐車場が広がる。

 「でも、不思議と何台かは車止まってるんだよね。 まだ体育館に誰か残ってるのかな。 それとも付近の住民の車かな?」

 エディはニックに言われた通り、駐車場へゼファードバスターの操縦者を探しに来たのだ。

 外はこの天候だ。

 犯人はきっと車の中にいるだろう。

 もう車はほとんど止まっていないだろうから、すぐに発見できるに違いない。

 と、タカをくくっていたエディは、以外に多く車の止まっている駐車場を見て舌打ちをした。

 「こんなの、1台1台中を覗いてたら警察に通報されそうだな…。 どうする?」

 その時、1台の車がエディの目に止まる。

 黒い大型のバン。

 外車だ。

 ウィンドウには全てスモークが張られ、はっきり言ってあまり近寄りたくない雰囲気だ。

 エンジンは駆けっぱなし、そして何より目に付く無線アンテナ。

 ごくっ。

 エディは息を飲んだ。

 ふと、先程のニックの言葉が脳裏をよぎる。

 …(気を付けろ。 頭のイカレた野郎だ。 発見しても様子を伺うだけでいい)… 

 「…確かにこいつはヤバそうだ。 そうさせてもらうよ。 ニック」

 エディは再び建物の影に身を潜めた。

 「(ニックの奴、どうなったかな。 とっくに片付いちまったのかな?)」

 まさか、あんな事になってるとは思いもしないエディ。

 「(あれ、必要無かったかな?。 あのEXIV、バケモンだからなぁ…。 主任も用心深いよ)」

 フッと笑うエディ。

 しかし、頭の片隅では違う事を考えていた。

 「俺、何しに来たんだろ…?。 あれも必要無いんじゃ、何の役にも立ってないじゃないか。 この数週間は何だったんだ?。 メルクリウスぶっ壊しただけか?。 俺だってニックと同じ給料貰ってんだぞ」

 自分に言い聞かすようなエディの独り言。

 そして、しばらく考え込んだエディは、意を決したように立ち上がった。

 そそくさと、雨を避けるように身を屈め、黒いバンに最も近い乗用車の陰に駆け込む。

 わずかに顔を覗かせ耳を澄ませてみたりするが、雨の音とバンのエンジン音しか聞こえない。

 「………」

 躊躇しつつも、そろりそろりとバンに近づく。

 バンの横に差しかかった時、突然

 「なんだこれはっ!!

 バンの中からドスの効いた野太い男の叫び声がした。

 「ひえっ!」

 最初から腰が引けていたエディは、たまらずしりもちをつく。

 その直後

 ガラッ!

 バンのスライドドアが開いた。

to be Next.

 

〜あとがき〜

 「なんだこれはっ!!」のタイミングは、ディンキィがハヤテを壁に叩きつけたのと同時と思って下さい。って、補足しないと分からないのが作者として恥ずかしいですが…。ちなみに、この男の声は銀河万丈さんでお願いします。

 しかし、ディンキィとEXIVの会話、読んでてかゆいですな。ディンキィとEXIVには、不器用なオーナー達に代わって愛を育んで欲しいです。

 

※註

 「ZEPHERED MK−Y ED」

 タヤマの次世代機開発用試作機の1機。開発競争には早々に敗れたが、性能的に問題があった訳ではない。

 EDは他企業のある実験の為譲渡されたが、その運用試験がタヤマに委託され一時返還された。それをディンキィに擬装したのはまた別の企業であり、ディンキィとは複数の企業が全くジャンルの異なる実験を1機で行っている物である。その実験自体は実はタヤマにはメリットは無い。現在のディンキィの構造はプラレスには全く応用できない。

 ちなみにファニーはニック同様のタヤマの準社員であるが、EDをディンキィに擬装した企業からの出向社員でもある。ファニーは最初からディンキィ専属なのです。

 ディンキィの超高性能やアナライザーとしての高度な分析能力は、それらの企業の謎の実験によってもたらされた物で、その実験の副産物に過ぎない。タヤマはそれを試験運用のついでに有効活用しているにすぎないが、あまりにも非道徳的。ディンキィの活動を極力伏せようとするのは、そーゆー理由です♪。

 ディンキィの正体、これが「PURE」のテーマへの1つの回答です。

 

 

オリジナル・ストーリー目次へ戻る

第20話に戻る

第22話に進む