「PURE」22th
「キッ、キサマハっ…!!」
ハヤテが絶句した。
「だぁから〜、言ったじゃない、久しぶりの再会なのにって。 ふふっ」
ディンキィが無邪気に笑う。
「ソ、ソンナ馬鹿ナ…。 EDハ例ノ実験デ…。 マ、マサカ、キサマッ…!!」
「うふっ♪」
ニッコリ微笑むディンキィ。
その微笑みがハヤテを恐怖させる。
「マサカ、“アレ”ヲ積ンデイルノカ?。 コンナ住宅地デ“アレ”ノ運用試験ヲシテイルノカ?!」
「そんな無茶はしないわよ。 でも…」
バチッ!
ディンキィの髪がふわりと広がり放電する。
同時に「にま〜」と微笑むディンキィ。
「お望みなら、いつでも私を感じさせてあげるわ…♪」
「ウ…クッ…」
ハヤテは動けない。
ディンキィの正体を知っているから…。
「あら、さっきまでの威勢はどうしたの?。 わたしが“あの”EDだと知って、おじけづいた?。 私が使用している部品はどれも新開発で今はまだ耐久試験中なのよ。 戦っているうちに壊れるかも。 あなたなら勝てるかも知れなくてよ」
「…無理ダ。 基本性能ガ違イスギル…。 俺ハ“プラレスラー”ダ…」
「も〜、分かってるじゃない。 私もそう思うわ。 くすくすくすっ」
ハヤテは、目の前の小柄な少女に、恐怖ですくんで、動けない…。
―――
「ファニー!」
しばらく考え込んでいたニックが突然、口を開いた。
「なに?」
「確認するぞ。 今、ディンキィはオートパイロットなんだな」
「ええ、そうよ」
「それは回復できないんだな?」
ファニーがキーボードをランダムに叩く。
通常のオートパイロットは、どのキーを入れても即座に回復するのだが、やはり反応はない。
「だめ、応答無し」
「リミッターは?」
「作動中。 解除された形跡はないわ」
再び考え込むニック。
しばらくして、独り言のように話し始めた。
「あいつはダブルエックスだ。 ディンキィの観測に間違いはないだろう。 しかし、あれは俺達の知っているダブルエックスではない」
「全然わからなかったものね」
「外観だけじゃない。 性能的にもだ。 ダブルエックスはパワー追求の余り性能に偏りがあった事で、次世代機候補から外された機体だ。 おかしいじゃないか。 それが、俺のEXIVを上回るほどのグラウンドテクニックを持つのはなぜだ?」
「そ、そういえばそうね」
「多重可動装甲も装甲内エアノズルも、うちでは実用化できなかった技術だ。 それが完全に機能しているじゃないか!」
「…それで?」
一見落ち着いて見えたファニーだが、実は動揺していたのかもしれない。
ニックの言わんとしている事がイマイチ把握できない。
「だから!。 あいつは俺達の知っているダブルエックスじゃない!。 明らかに改良を施されてる。 それも、うち以上のかなりの技術力だ。 背後の組織は相当大きいぞ!。 俺の言ってる意味わかるか?!」
「…なんとなく」
「だぁ〜っ!。 わかっとらん!。 今はリミッターが入ってるが、ダブルエックスの性能いかんによってはディンキィは自分の判断で解除するぞ!」
「そっ、そうか!」
「こんな市街地でディンキィのリミッターは解除させられん!」
「でも…、オートパイロットが回復できないんじゃ…」
「強制終了しろ」
「ちょ、ちょっと待って。 今あそこでディンキィが強制終了したら…」
「俺が直接、回収に行く。 急げ!」
ニックがスクッと立ち上がる。
「じょっ、冗談でしょう?。 それができればとっくにやっているわ。 なんで私たち、わざわざプラレスラーで戦ってると思ってるの?。 あいつ、どー考えても制御回路外されてるわ!。 人間にも攻撃してくるわよ!。 あいつのパワー見たでしょう?、コンクリートもブチ抜くのよ!。 今時のプラレスラーに人間が歯が立つ訳ないじゃないっ!!」
「他に手が無いんだっ!。 急げ!。 もう1つ心配な事があるんだ。 時間が無いっ!!」
「えっ?」
「エディが危ない…。 無茶してなきゃいいんだが…。 行かせたのは失敗だった…」
「えっ?、えっ?」
ファニーの頭は既にパニック状態だった。
いつもの直感鋭いファニーからは想像できない。
「さっき自分で言ったじゃないか、ダブルエックスの操縦者は河田をダムに沈めた犯人だって。 しかも、バックは相当の大企業だ。 殺人を隠蔽できるほどにな…」
「―――っ!!!」
ようやく事の重大さを認識したファニー。
顔から血の気が引いていく。
「急げ、強制終了だ!」
「りょ、了解っ!」
ニックは急いで周囲を見渡す。
何が武器になる物でもないかと探すが、ふとエディが持ってきた“私物が入った”ケース(16話参照)が目に止まる。
気休めでも盾がわりにでもなるかと思い、そのケースを手に取った。
ゴトッ…
「?!」
中から聞き慣れた音がした。
「ニック!、だめ!。 ネガティブ、反応無し。 強制終了も出来ないわ!」
「………」
「ニック!、どうするのっ?!」
ファニーの叫びもニックの耳に届かない。
「(私物…?。 何が入ってる?。 あいつ、走り去る間際、何か言って行ったような…)」
ケースの鍵はなぜか解除されていた。
ニックは何かに導かれるように、エディのケースを開けた。
ニックの目が大きく見開かれた。
「……ば、馬鹿な。 なぜお前がここにいる…」
ニックの体が震える。
「ニックっ!!。 強制終了も電源カットもできないよ!。 どうするのーっ!!」
「…いい」
「え?」
「そのままでいい。 何もしなくていい」
「え?、なに?」
ニックの反応に当惑するファニー。
「俺はエディを捜しにいってくる。 おまえはここでこいつらを見ててくれ」
「なに?、なに?、どういう事?」
「こっちはコレで十分だ、こいつ1機で…」
開いたエディのケースの中身ををファニーに見せた。
「っ!!。そっ…そいつはっ!!」
―――
「立ちなさい、ダブルエックス」
ディンキィが1歩前に出る。
「クッ…」
ハヤテは動けない。
蛇に睨まれた蛙のように。
「立ちなさいっ!!」
ディンキィが一喝する。
ハヤテは一瞬ビクッと体を震わせると、ゆっくりと立ちあがる。
「ようやく自分の立場を理解したようね。 たかが失敗作が随分とてこずらせてくれたものだわ」
「…………」
「ダブルエックス、あなたを回収します。 このまま…」
ブンッ!
「っ!!」
ハヤテの爪がディンキィの髪をかすめた。
とっさにそれをかわすと、その腕を取りつつハヤテの背後へ回り反対の腕も取る。
更に片足をハヤテの背中に当てる。
サーフボードストレッチ。
にわかには信じがたい程のディンキィの流麗な動き。
「往生際が悪いぞっ!」
ハヤテの背中を思いきり蹴りつける。
床に叩きつけられるハヤテ。
「グアッ…」
「あらぁ〜、やる気なの?。 くすくすっ」
再びディンキィのスイッチが入る。
「チ、違ウ!、俺ノ意思デハナイ。 “オーナー”ガ俺ニ攻撃ノ命令ヲ…」
そう言いながら、ゆっくり立ちあがるハヤテ。
そして
「ウ、ウオオオオオオオオオオオアアアアアアァァァッ!!」
ハヤテの咆哮。
「ふふ、最期は華々しく散ろうってわけね。 それなら容赦しないわよ」
ディンキィの髪がふわりと広がり、かすかに光りを帯びる。
指先が「パチン!」と放電する。
「いらっしゃい。 EXIVとメルクリウスの仇、取らせてもらうわ」
ハヤテが全身のエアノズルを全開にしてディンキィに突っ込む。
これまで打撃と姿勢制御に使用してきた手足のエアノズルを加えた総推力は、ディンキィの予測を大きく上回った。
「!!、速いっ!!」
とっさに前転しながら回避するディンキィ。
その横を猛スピードですり抜けるハヤテ。
「ふん、今までは全開ではなかったという訳ね。 面白いわ、それならこっちも…」
余裕の笑顔をハヤテに向けるディンキィ。
しかし、そこにハヤテの姿はなかった。
ハヤテはディンキィの横をすり抜けた勢いそのままで直進していた。
その先にあるのは…。
「!!、EXIVっ!!」
ディンキィが叫ぶが、既にスリープモードに入っているEXIVに対処できるものでは無い。
「俺1人デハ死ナンッ!。 セメテ、モウ1機ッ!!」
EXIVに急襲するハヤテ。
さすがのディンキィでも間に合う距離ではない。
「死ネッ!!」
大きく片手を振り上げるハヤテ。
ガシッ!!
そのハヤテの手首が唐突に何者かに掴まれた。
「?!。ナニッ!!」
その場で急制動を余儀なくされるハヤテ。
その傍らでハヤテの手首を掴む、大柄なプラレスラーの姿。
「?!。 キッ、キサマハッ」
「久しぶりだな、ダブルエックス」
「ジ…ZENITHッ!!」
to be Next.
〜あとがき〜
ありがちな展開で申し訳ないです(いちおーネタは13話で振っといたんですが)。ここらへんでゼファード全機紹介しておかないと、もう暇が無いんです(笑)。しかし、どこが門外不出なんだろね…。
今回の「おまけ」は、ちょっと凝ってみました。でももう2度とやりたくない…。ジニアスの全身は次話までお待ちください♪。
※註
「ZEPHERED MKX ZENITH」
プラレスラー名鑑タヤマ開発部参照。
【APPENDIX】