オリジナル・ストーリー「PURE」

 

「PURE」25th

 

 「貴様に解るものか!、貴様なんぞに…タヤマの実験室で腫れ物の様に扱われヌクヌクと成長を続ける貴様に、俺の気持ちが解ってたまるか…」

 あまりの事に声も出ないジニアスとディンキィ。

 「俺は捨てられた!。ケースに入れられたまま2度と電源を入れられる事も無く、いつしか忘れ去られ、いずれは解体される運命だった!。たった一度貴様に敗れただけで!」

 「そ…それは…!」

 ディンキィが口を挟むが、

 「ED、貴様もだ!。NASDAやら何とか産業やらによってたかって体をいじくり回され、この世に比類無き力を手に入れた。その気になれば俺なぞ一撃で木っ端微塵にできるほどの力だ。さぞかし気分がいい事だろうさ!。それなのに俺は…!。なぜだっ!、なぜ俺だけが…」

 ハヤテがガクッとマットに膝をついた。

 「だから俺はダブルエックスの名を捨てた。タヤマに捨てられたのではないっ。俺がタヤマを捨てたのだ!。河田オーナーと共に、貴様らに報復する為にっ!。」

 「…ダブルエックス…………」

 ジニアスもディンキィも、いくらメモリーを検索してもハヤテにかける言葉が見つからない。

 ―――

 「う〜ん…」

 ファニーがゼェゼェと息を乱しながら4台のパソコンを引きずっている。

 「もう、みんなどこ行っちゃったのよ?!」

 と、その時

 ドン!

 後を全く見ていなかったファニーは何かにぶつかった。

 「きゃっ」

 「おっと、失礼」

 ぶつかったのは人だった。

 その重低音の効いた太い声から大柄な男性と分かる。

 「あ、ご、ごめんなさい」

 ファニーは即座に謝りつつ、相手を見た。濃紺のスーツをバシッと着込んだ初老の紳士だった。

 口髭を蓄え、ちょっと長谷に印象が近い。

 「いや。こちらも考え事をしていて。お怪我はございませんかな?」

 「いえ、こちらこそ。ちょっと急いでいたもので。ほほほ」

 相手の言葉遣いや物腰も至って紳士的だった為、ファニーも思わずつられて口に手を当てて「ほほほ」なんて普段はしない笑い方をする。

 紳士はファニーが運んでいる4台のパソコンを見て目を丸くする。

 「これは…、大変なお荷物ですな。どちらまで?」

 「え、えぇ…。ちょっとこの奥まで…」

 「この奥というとプラレスの練習場ですな。なるほど、プラレス用のコンピューターですか。それはさぞかし難儀な事でしょう。ここはひとつ私にお手伝いさせて頂けますかな?」

 「い、いえ、とんでもない!。どうかお構いなく!」

 遠慮している訳ではない。

 この4台は部外者に触れさせられないからだ。

 「いやいや、あなたのようなお美しいレディーがご苦労なさっているのを見過ごしては、一生の不覚となりましょう。どうか私めに手伝わせて下さい」

 「あら、レディーだなんて、そんな…」

 ファニーが照れて頭をかいている内に、紳士は4台のパソコンを「ひょい」っと事も無げに軽く持ち上げる。

 それを見て今度はファニーが目を丸くする。

 「…驚きましたわ。力持ちでいらっしゃるのね。何かスポーツでも…?」

 「いや、お恥ずかしい。昔の話ですが、軍に入隊しておりましてね、随分鍛えられました。嫌な教官がおりましてね、私は特に可愛がられました。今では感謝しておりますが」

 「軍?。日本の自衛隊ですか?」

 「まぁ、そんなところです」

 紳士は子供のような笑顔を作った。

 「さ、参りましょう」

 そう言って紳士は一歩下がる。

 レディーファーストを心得たその動きにファニーは不覚にも気を許した。

 「ありがとう。どうかご無理はなさらずに」

 「なんの。まだまだ若い者には負けませんぞ」

 「くすっ。お若いのですね♪」

 「あなたのようなお美しい方に接するのが若返りの秘訣です」

 「あら、お上手ですわ♪。これまでかなり女性を泣かせていらしたんじゃありませんこと?」

 「いや、手厳しい。若気の至りと思うて下さい」

 「あら、やっぱりぃ〜」

 しばし談笑しながら並んで歩く。

 「失礼ですが、こちら(この体育館)にお勤めでいらっしゃいますか?」

 ファニーが紳士に訊いた。

 「いえ、ただの通りすがりで。そういうお嬢さんは、今日のプラレスに参加されたので?」

 「あら、ご覧になりました?」

 「はい。いや、今日の試合は良い試合ばかりでした。この老骨も血がたぎりました」

 「ありがとうございます(参加者のフリ)」

 「特にあの試合が良かった。ええと…なんと言ったかな。飛び入り参加のタヤマのゼクロス」

 「!」

 ファニーの顔に緊張が走る。

 「あれはいい動きをしていましたな」

 「そ、そうですわね…」

 「そういえば、1つお聞きしたい事があるのです」

 紳士が不意に歩みを止めた。

 「なんでしょう?」

 「お嬢さんのオレンジ色のプラレスラー、あれは一体何者ですかな?」

 「!!」

 紳士の笑顔は変わらず子供のような優しさだったが、ファニーは急速に体温を奪われていく。

 「いや、驚きました。今まで“外では”誰にも負けた事の無いハヤテが片手であしらわれてしまいました。いや、私も相手がプラレスラーだと油断しました。未だに信じられんのですが、あの小柄なプラレスラーは一体何者ですかな?」

 「ハヤテ?」

 「あなたがたに“ゼファードバスター”と命名して頂きました。いや、良い名だと感心しました」

 「あ…あ…」

 ファニーは声が出ない。

 「いや、素直に教えて頂けると助かるのですが…。私もあなたのようなお美しいレディーに手荒な事をするのは本意ではありません」

 紳士は手に持った4台のパソコンを静かに降ろした。

 そして懐に手を伸ばす…。

 「ま、私のポリシーなどビジネスには無関係ですが…」

 コルトガバメントの銃口がファニーに向けられた。

 赤いレーザーポインターの光がファニーの鼻先を捕らえる。

 ―――

 「…だが、そんな俺を河田オーナーが助け出してくれた。ジニアス、貴様を倒す力を与えてくれるという協力者も現れた。一緒にジニアスを倒し、タヤマのバカな上層部を後悔されてやると言ってくれた。俺は嬉しかった。今はその協力者が俺のオーナーだが、俺がジニアスを倒せば河田オーナーも喜んでくれる!。俺は河田オーナーの為にも貴様をっ…!!」

 「ちょ、ちょっと待って、ダブルエックス!」

 ディンキィがダブルエックスの話を止める。

 「あなた、河田オーナーの為にって言ったわね。あなた、聞いてないの?」

 「…………」

 「河田オーナーは死んだわ。他殺だそうよ」

 ハヤテの体が一瞬震えた。

 「…もう1度言ってくれ」

 「河田オーナーはもういないわ。ダブルエックス、あなた騙されてる!」

 「そ、そんな馬鹿な…!。そんなはずは…」

 ハヤテは立ちあがり、ゆっくりと後ずさりする。

 「ダブルエックス!、言って!。その協力者って誰なの?!。そいつはあなたを利用する為に、河田オーナーを殺した犯人よ!」

 「嘘だ!。そんなはずは無い。今のオーナーは河田オーナーの意志を継いで…」

 「ダブルエックス!」

 「そ、それじゃ…、俺は今まで何の為に…………」

 ハヤテが再びガクッと膝をついた。

 「嘘だ…」

 マットに伏すハヤテ。

 ジニアスはただ黙ってそれを見つめた。

 しかし、ハヤテの異変にディンキィが気が付く。

 「ちょっと…。この音、何…?」

 「音?」

 ジニアスがディンキィに訊き返す。

 「あなた、聞こえないの?、この音…。ちょうど1秒間隔で…」

 ―――

 「あう…う…」

 冷たい廊下にお尻をつき後退るファニー。

 恐怖の余り脱力し言葉も思うように出ない。

 その目には涙が浮かぶ。

 「そんなに怖がらなくても結構ですよ。私の問いに答えて頂ければ何もしません。まだ事を荒立てるのは私どもにとっても不利益ですのでね」

 「ううっ…」

 ぶんぶんぶんっと首を振るファニー。

 「おや、気丈なお嬢さんだ。大抵の日本人はこれで言う事をきくんですが。それとも、コレがオモチャに見えますかな?」

 ヒュン!

 突然ファニーの耳元で音がして、髪が軽く後に引かれた。

 直後、男の足元に排莢された薬莢が転がる。

 ファニーはそれを見て、自分の髪の中を銃弾が通過した事を理解した。

 「お答え願えませんか?。実は先程、ハヤテのコンピューターの中に「ED」というプラレスラーに関するファイルを発見したのですが、見ようとした途端に消去されてしまいました。それほどのプロテクトがかかった内容ですから、是非とも伺いたい」

 「はうっ…あううっ…」

 「おや、いけませんな。私とした事が、逆効果でしたか?。呂律が回らない程、動転されるとは…。しかし弱りましたなぁ…。あまりここに長居はできません」

 「…………?」

 「私も、やられたままで帰るのはプライドが許しません。申し訳無いが、あなたがたのプラレスラーは破壊させて頂きます」

 ―――

 「ED!。1秒間隔って、タイマーか?」

 ジニアスには聞こえない音域だった。仕方なくディンキィに訊く。

 「間違い無いわ。カウントダウンね」

 「音源はどこだ?!」

 「…ダブルエックスよ」

 「な、なんだとっ…」

 2機は大慌てでリングに上りハヤテに駆け寄る。

 「ダブルエックス!。動かないで!」

 「EDか…?。好きにしろ。俺にはもう…」

 事態を把握していないハヤテ。

 既に自暴自棄になっている。

 「そうじゃない!。お前、気付かんのか!」

 「ジニアス…、何を言って…」

 その時、

 「あったわ、ここよ!。胸のやや下、ブラックボックスよ。私にも中は見えない」

 「何がだ?」

 「ダブルエックス…、あなたの中にブラックボックスがあって、その中でタイマーがカウントダウンしてる…。時限爆弾よ…」

 「!!。そ、そんな、馬鹿な…」

 愕然とするハヤテ。

 「中身が見えないから何ともいえないけど…、軍隊が使うような高性能火薬、TNT−EXとかなら、このリングを吹っ飛ばすぐらいの威力はありそうよ…」

 「そ、そうか…。俺は…また捨てられるのかっ…」

 ガックリと両手をマットにつくハヤテ。

 ―――

 「な、なんですって…?!」

 「おや、呂律が回りましたな。しかし、もう遅い。ハヤテの起爆スイッチは入りました。ハヤテが機能停止しない限り解除は出来ません。あなたも口が固いようですので、この場はこの4台のパソコンを頂いて失礼する事に致します。データはもう十分取れました。いや、急進中のタヤマを標的にして正解でした。思った以上の技術を持っていらっしゃる。危険を冒してガードの固い最大手などを狙わずに済みました。感謝申し上げますよ。独力では戦車のような物しか作れませんでしたから。さらにこの4台のパソコンを基地に持って帰って分析すれば…」

 「基地…?」

 「…口が滑りましたな。しかし、分かったところで、民間人には何もできない」

 「じょっ、冗談じゃないわっ!。こんな所でディンキィを爆破されてたまるもんですか。そう好きにはさせないわっ」

 「お元気になられてなによりですが、これ以上私の手を煩わせないで頂きたい。こんな所で何名も手にかけたくはありません。先ほども申したように、まだ事を荒立てたくは無いのです」

 「何名も…って、ニックとエディに何かしたのっ!!」

 「名は存しませんが、1名、2階のベンチで休んでおいでです。いけませんな、あんな所で休んでは体に障ります。行って起こして差し上げたらいかがかな?」

 「あ…あなたはっ…!!」

 ファニーが体を起こそうとした、その瞬間、男は拳銃を振り上げ、優しい笑顔をファニーに向けた。

 「では、ごきげんよう。またお会いしましょう」

 ボンッ!!

 強烈な破裂音がして、ファニーは体を丸めた。

 直後、ファニーの体中に天井から蛍光灯の破片が降り注ぐ。

 「…………」

 体を小さく震わせ動けないファニー。

 しばらくして辺りが静かになったのに気付き、恐る恐る顔を上げた。

 あの男は、もういない。

 そして4台のパソコンも…。

 ファニーはポケットから携帯電話を取り出し、震える手で電話をかけた。

 「…ファニーです…。長谷主任を…、緊急です。はい。…はい。すいません、一刻を争いますので…。コードDの処理をそちらから遠隔操作で…。いえ、4台全てです。はい、ジニアスもです。詳しくは後ほど…、はい。お願いします」

 震える声で何とか用件を告げ、携帯をポケットにしまう。

 続けて起き上がろうとするが、体の所々が痛い。

 蛍光灯の破片にやられたのだろうが、そんな事にかまっている場合ではない。

 何とか立ち上がろうとして床に手をつく。

 そして足元に目をやって、自分が失禁していた事に気が付く。

 「う…………。ぐすっ」

 それでもファニーは立ち上がる。

 そしてポロポロと涙をこぼしながら精一杯の声を張り上げる。

 「ディンキィ!、ジニアス!、聞こえるっ?!。ダブルエックスには爆弾が仕掛けてあるわ!。逃げてっ!。コードDもかかったわ!。あと数分であなた達のメインコンピューターが全消去されるわよ!。動けなくなる前に逃げてーーーっ!!」

 一呼吸で一気に怒鳴った。

 そして、おぼつかない足取りでヨロヨロと来た道を退き返す。

 「2階…ベンチ…。お願い…、無事でいて…。エディ…、ニックっ!」

 そして、ファニーは駆け出した。

 ―――

 「聞こえた?、ジニアス」

 「あぁ。どっちにしろ時間は無い」

 その2機の落ち着いた会話にハヤテが戸惑う。

 「何してる?。だったらなぜ逃げない?。もう爆発するかもしれないんだぞっ!」

 「…なぜ、俺達を逃がしてくれる?。俺を倒すのが目的ではなかったのか?」

 「…………俺の目的は、河田オーナーの無念を晴らす事だった。しかし、もう意味は無い。俺は目的を失った。結局俺はこうなる運命だったのさ…」

 「ダブルエックス…」

 「だが、最後にいい夢を見させてもらった。お前との戦い…、久しく忘れていた充実感を味わった…。悔いは無い。だから、行け…。俺に構わず行けっ!」

 「だめよ。あなたを置いては行けないわ」

 横でじっと見ていたディンキィが言った。

 「どうする気だ、ED?」

 「サブバッテリーからブラックボックスに1本ケーブルが延びてる。これ、時限発火装置の電源じゃなくて?。乾電池1本分のスペースが取れないのはしょうがないとして、欺瞞用のダミー配線すらされてない。よっぽど自信があったようね」

 「という事は?」

 「ダブルエックス。ちょっと手荒になるけど、あなたの動力を停止させます。多分それでカウントダウンも止まるわ」

 そう言ってスッと立ち上がるディンキィ。

 そして

 バチッ…バチバチッ

 ディンキィの体が激しく放電し髪が逆立つ。

 薄暗い部屋が照明を点けたように明るくなる。

 「はああああっ!」

 ディンキィが更に気合を入れる。

 指先が激しく放電し、放たれた電撃がマットを焦がす。

 「クッ…ED!、リミッターを切ったのかっ!!」

 ジニアスが恐怖に慄き後退する。

 「いいえ、蓄電力を一気に開放しただけ。どうせもうすぐコードDで動けなくなるんですからね」

 ニヤッと笑うディンキィ。

 そして

 「ダブルエックス。あなたのバッテリーをえぐり出します。動かないで!」

 腕を振り上げる。

 「なっ…」

 「待て、ED!。何もそこまでしなくても…」

 ジニアスが制止する。

 「何言ってんの!、時間がないのよ!。どいて!、1秒で終わるわ!」

 「機能停止させれば動力も自動的にカットされる!。俺にやらせてくれ、頼む!」

 「ジニアスっ!」

 「頼むっ!。俺にケリを着けさせてくれ!。その方がダブルエックスも…」

 「…………」

 「頼む…」

 ディンキィの体から放電が止む。

 再び辺りに静寂が訪れる。

 「時間が無いわ。私は念の為部屋の外に退避させてもらうわよ…」

 そう言って返事も聞かずにリングを降りるディンキィ。

 その2機の会話を聞いていたハヤテがゆっくり立ち上がった。

 「どうする気だ、ジニアス?。お前も逃げ…」

 ジニアスはハヤテの言葉を無視して、背後から高々とハヤテを担ぎ上げる。

 「なっ、何だ?!」

 そしてハヤテをコーナーポスト最上段に座らせる。

 そして自分はロープをまたぎ、エプロンからコーナーに登る。

 「ジニアス!何を…!」

 「別れを言う必要は無い。タヤマの実験室で会おう、ダブルエックス!」

 ジニアスがハヤテをダブルアームに取り、共にトップロープに立つ。

 ジニアスの背後は場外だ。

 「ジ、ジニアスっ!!」

 「さらば!、ゼファードバスター!!

 ジニアスがふわりと背後へ飛び降りた。

 ハヤテは抵抗はしなかった。

 自ら納得してジニアスに身を任せた。

 このプログラムはディンキィを含めゼファード全機が持っている。

 しかし使用した事は無い。

 あまりにも強力過ぎる技。

 1度も使用する事無く封印された技。

 雪崩式タイガードライバー’91。

 しかも場外への超高角度。

 これ以上の破壊力を持つ技は恐らく今後も登場し得ないだろう…。

 ディンキィは部屋の外で、ハヤテのタイマーが停止したのを確認した。

 急いで部屋の中に入ると、部屋の奥からジニアスが歩いて来るのが見えた。

 胸の前にハヤテを抱えて…。

 「ED、ダブルエックスのカウントダウンは?」

 「聞こえない…。止まったわ」

 「よし、急いでオーナー達と合流しよう。時間が無い」

 「ええ」

 2機は部屋を出て、並んで歩く。

 ジニアスに抱かれたハヤテの髪が揺れる。

 「おかえりなさい、ダブルエックス…」

 ディンキィがそっとハヤテに触れた…。

 ―――

 ファニーがゼェゼェと息を切らし、大急ぎで階段を駆け上がる。

 2階のベンチと言っても、何ヶ所もあるのだ。

 とにかく片っ端から覗くしかない。

 「あっ…」

 焦る気持ちに足が付いて来ない。

 階段に足を引っ掛け転倒し、スネを思いっきり階段の角に痛打する。

 「―――――っ…」

 声にならない激痛。

 しかし、涙を振り払って跳ね起き、足を引きずりながらも階段を駆け上がる。

 そして2階に着き周囲を見まわす。

 人影は無い。

 猛然と廊下をダッシュする。

 そして廊下の角を曲がった瞬間、

 「!!」

 ニックの背中が見えた。

 床にうずくまるニック。

 そのニックの影に、床に横たわる人影が見える…。

 ファニーは恐る恐る近づく。

 「っ!!!。エディっ…」

 横たわるエディの脇腹からおびただしく出血している。

 その傷口をハンカチらしき布で押さえるニックの手も真っ赤だ。

 「…息は…まだある…。救急車も呼んである…。あとは祈るだけだ…」

 小さい声で語るニック。

 「…そっちはどうなった、ファニー?。終わったのか?」

 ファニーの方を向くニック。

 そして、そのファニーの姿に驚く。

 「なっ…。ど、どうしたんだ、ファニー?!。何が…?」

 「…うっ、…………ううっ…………」

 がばっとニックの背中に抱きつくファニー。

 そして、

 「ニックーーーーーーーっ!」

 号泣するファニー。

 「ファニー…」

 その様子から、只事でない事がファニーの身に起こった事は想像できる。

 しかし今は聞き出せる状況ではない。

 ニックは、ファニーを1人残した事を後悔した。

 あの時はエディを捜す事の方が危険と判断したのだが、それは後の祭りだ。

 ニックは一言

 「すまん、ファニー…」

 ただそれしか言えなかった。

 と、その時、

 ピクッ…

 エディの体が微かに動いた。

 「!。エディっ」

 その声にファニーも顔を上げる。

 「エ、エディっ。ダメよ、死んではダメーーーっ」

 「ニ…、ニーナ…。ごめん…、そんな泣かないで…」

 エディがうわ言を言った。

 「ニーナ?」

 「エディ!。私よ、ファニーよっ!。エディーっ!!」

 しばらくして救急車が到着、エディは近くの病院に搬送された。

 エディは、かろうじて一命は取り止めた。

 ふと気付くと、外は日が差していた。

 ようやく嵐は過ぎ去ったようだ…。

 今回の件は、世間には不思議なほど小さく報道された。

 被害者「都内の会社員Aさん(22才)」が刃物で刺され軽傷、通り魔的犯行で犯人は逃走中という、地元のニュースでも10秒程度の内容だった。

 3人の素性や、犯人が拳銃を使用した事なども伏せられた。

 なぜそうなったのか、長谷を始めタヤマの関係者にも分からなかった…

 

第3章 完

 

〜あとがき〜

 PURE第3章、いかがだったでしょうか?。

 予想よりも長くなってしまいました。

 たぶんこの第3章が一番長いんじゃないかな?。

 これでPUREはストーリーのほぼ半分が終わりました。

 ディンキィの正体は?、謎の男の目的は?、謎を残しつつ(賢明な読者にはもうバレているハズ)やっとターニングポイントに到達したという感じです。

 この先も長いにゃ〜。

 

 プラレスラー「ハヤテ」。

 かつて私が「あいつ」「ゼファード」に続きデザインした3機目のプラレスラー。

 第1稿は何と10年以上前です。

 その第1稿からハヤテはゼファードのライバル“ゼファードバスター”でした。

 ただ、そのわりにはゼファードとハヤテの試合というのは想定した事はありませんでした。

 今回、10年来の夢が1つ叶った気がします。

 このような場を提供して頂いて、ブルー君には感謝の気持ちで一杯です。

 私自身、ハヤテというプラレスラーには思い入れが強いので、そのラストは悩みました。

 ハヤテに同情できるようにしたつもりですが、どうでしょうか?。

 ディンキィをはじめ、プラレスラー各機を擬人化し過ぎてる感もあります。

 しかし、彼らにも演技をしてもらわないと、ストーリーを伝えきれないんですね〜。

 苦肉の策です。

 

 次話からは、第4章に入る前に数話余談を入れます。

 第4章は書くのもツライほどキツイ内容なので(いろんな意味で)、その前に清涼剤を一服という感じです。

 PUREのメインストーリーには全く関係無い話になりますが、自分ではけっこー面白く書けたと思ってます。

 お楽しみに♪。

 

 ※註

 「コルトガバメント」

 アメリカのコルト社製の拳銃、45口径(10mm)、オートマチック。質実剛健で知られる名銃。シンプル・イズ・ベストと言われるこの世界では、今なお人気が高い(筆者もその1人)。ベレッタの登場以降9ミリが流行っているが、この45口径という響きが好き(病)。

 ちなみに実際にはガバにはサイレンサーもレーザーポインターも付かない(と思う)。

 

 「TNT」

 TNT火薬。TNT−EXは筆者の造語。そんな火薬は多分ないと思う。

 TNTとはトリニトロトルエンの略。ニトロ(硝酸)とトルエン(揮発性油。吸引すると幻覚症状を起こす。中毒性あり)を結合させたもの。黄色の粉末で強爆発性。ニトロとグリセリン(無色透明の甘い液体、甘味料の原料、薬局で買える)を結合させたのがニトログリセリンで、ダイナマイトの原料になる。つまり、ダイナマイトとTNT火薬は違う。

 

 「タイガードライバー’91」

 プロレスリング・ノアの三沢光晴選手の必殺技。以前PS2のプロレスゲームのモーションキャプチャー取りの際、厚さ20cmのエアマットの上で軽く落としただけでも相手選手が首を痛めたという実話があるほど危険な技。通常のタイガードライバーは雪崩式が一度だけ使われているが、その際会場が一瞬静まり返ったのが忘れられない。

 

 

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