オリジナル・ストーリー「PURE」

 

「PURE」 27th

 

 ここは某地方都市、市立体育館。今日ここで地方のプラレス団体の興行が行われる。エディは、いつも通りの仕事でここを訪れていた。エディもニック同様、こうしてあまり人には言えない方法でZXの試験を行っている。「タヤマ模型」の市販プラレスラー「ZECROSS」のプロトタイプ「ゼファード MKV ZX」を使用しての、「ZECROSS−U」の改良箇所及び新パーツの実地試験である。

 さらに今回は、いつもと異なる仕事も任されていた。その任務とは…。

 ―――

 「きっ、緊張しますぅ〜」

 「大丈夫。そんな堅くならないで(笑)」

 笑顔もひきつるニーナに、優しく声をかけるエディ。

 「プラレスやってるモデラーは、みんないい奴ばっかだ。まぁ、たまには色んなのもいるが、そんな悪い奴はいないよ。俺が保証する。だから安心して、せっかく来たんだから楽しまないと」

 「は、はい。そうですよね」

 エディの顔を見てニッコリ微笑むニーナ。

 「今日、初めてだって?。プラレス始めてどのくらい?」

 「大体〜…、2ヶ月ぐらいですぅ」

 「2ヶ月?!」

 「ひょ?」

 2ヶ月と聞いてエディは声を上げてしまった。そのエディの反応にニーナも戸惑う。はっきり言って、ニーナの行動は無謀だ。たった2ヶ月では基本操作を習得できたかどうかだろう。試合など夢物語と思える。エディの表情が難しくなる。

 「あのぉ〜…」

 さすがのニーナもエディの表情から察したらしい。不安げな表情をエディに近づける。

 「ん?。あ、いや、なんでもないよ。それよりさぁ…」

 ムリヤリ笑顔を作るエディ。

 「はい?」

 「プラレスラー見せてくれるかい?、ニーナの」

 「え〜…、恥ずかしいですぅ…」

 「ちょっとでいいから。頼む」

 「…………ちょっとだけ、ですょ」

 ニーナは、傍から見たら何を見せようとしているのか不安になるほどモジモジしながら、傍らのケースをテーブルに上げる。その際ケースをテーブルの縁にぶつけたりするが、エディはもうニーナのポカには慣れてしまった。

 ニーナがケースから恐る恐るプラレスラーを取り出した。

 女性型Jr.ヘビー。可愛らしい外観、いかにも女子プロレスラーなコスチューム。

 エディの予想は的中した。上級者であれば、第一印象でそのプラレスラーの実力をある程度看破できるものである。エディ程の実力者であれば、それはほぼ正鵠を射るだろう(ニックはそうでもないらしいが)。

 「…………」

 エディは黙り込んでしまう。目の前のプラレスラーは、誰が見ても「ド素人」の作品である。ちゃんと動くのか?と疑問になる、それ程のレベルだった。エディの表情は更に厳しくなる。

 「…エディ?」

 「すまん、パソコンの中身も見せてくれるか?」

 ニーナの顔も見ずに言う。

 「…はい」

 ニーナはパソコンの電源を入れ、静かにエディの前に差し出す。そのニーナの表情が既に酷く落胆している事にエディは気が付かない。エディは手馴れた手つきで次々とプログラムを開いていく。そして、その出来の悪さに愕然とする。市販時の同梱ソフトと思われるが、どこをどういじったのか、これでは正確な動作にも支障をきたす。当初の予想通り、これでは試合になどならない。受付の段階でチェックできたはずなのに、なぜ参加を認めたのだろう?。

 もう1つ疑問点がある。機種が判らない。ハンドメイドとは思えない。それには大変な知識と経験が要るからだ。初心者は市販機から入るのが常套だが、エディをもってしても機種が判明しない程、改造が施されているとは思えない。

 「このコ、市販モデルだよね?。「アオヤマ」の「ジュリア」に似てるけど違うな?。メーカー教えてくれる?」

 「…………私、お金ないから…」

 ニーナはうつむいたまま答える。その表情はうかがえない。

 「え?」

 「…LIZARD(リザード)です。香港の…」

 「あ、そ、そっか…」

 香港の製品が全て低性能という事では断じて無い。ただ中には、こういう「コピー商品」「類似品」という安価な粗悪品も広く出まわっているという事実もある。それは特に香港に限った事ではない。日本にも似たような物はある。(余談だが、英語で違法コピー商品の事をチャイニーズコピーと言う。)

 ニーナの「…私、お金無いから」という言葉がエディにズシリとのしかかる。今のプラレスは確かに金がかかりすぎる。もちろんタヤマにも比較的手頃な「入門セット」や、ゼクロス系とは別の「組立調整済完成品」というシリーズ商品もあるにはあるが(ゼクロスは“改造を楽しむ”というコンセプトですので)、上を目指すならそれなりの出費は覚悟しなければならない。それはプラレスに限った事ではないが、現在のプラレス業界が抱える問題の1つといえる。タヤマという模型メーカーに勤務するエディにとっても他人事ではない。

 「ぐすっ…」

 不意に、ニーナが鼻をすする。

 「?、ニーナ?」

 「私…やっぱり帰ります…」

 「えっ?。な、なんで?」

 「だって…」

 エディは後悔した。考えていた事が顔に出てしまっていたらしい。ニーナはエディの表情から察したのだ、自分のレベルを。

 「私…一緒にプラレスやってくれる友達とかいなくて、でも独学じゃ限度があるし、自分が上達してるかどうかも分からないし…。だから…」

 そこまで言って言葉を詰まらせるニーナ。涙の雫が強く握った拳に落ちる。

 「…ニーナ」

 「でも、わかった…。私なんか、まだ来ちゃいけなかった…。だから…帰る…」

 ゆらりと立ちあがるニーナ。

 「ちょっ、ちょっと待った!」

 エディがニーナの腕を掴む。

 「エディ?」

 「座って」

 「でも…」

 「いいから。ほら」

 ニーナの腕を引き、座らせる。同時にエディが立ちあがり、控え室内の参加者に声をかける。

 「あ、あの、すいません。まだ時間あるんで、ちょっとここでセッティングの最終調整していいでしょうか?。」

 「全然かまわんよ。周りに迷惑じゃなけりゃ」

 近くに座った男性が言った。

 「す、すいません。ありがとうございます」

 軽く一礼するエディ。その男性は興味もなさそうに、読んでいた本に目を落とす。

 「…エディ?」

 「ニーナ。このコの名前は?」

 「“オルティア”です。でも、どうして…?」

 「よし。オルティアを立ち上げて」

 「えっ?」

 「どこまで出来るか分からないけど、問題点が無いか俺が見てやるから」

 「そんな…、ダメです。そんな迷惑かけられません!」

 「全然迷惑じゃないよ。それに、そういう友達を探しに来たんだろ、今日は」

 「エディ…」

 「ほら、時間がもったいない。早く!」

 「は、はいっ」

 ニーナは目の涙を払い、キーボードに向った。ほどなくして、オルティアが自分の力で立ちあがった。

 「よし、始めよう。スタイルはプロレスだね?」

 「はいっ」

 「じゃ、まずは右ストレート、1発打ってみて」

 「はいっ」

 しゅっ!

 オルティアが右手でパンチを放つが、この1発でエディには解ってしまった。右足の踏み込み、腰の回転、これではペットボトルも倒せない…。とてもこの待ち時間だけでは間に合いそうもない。

 「…エディ?」

 「あ、うん、いいよ。次、左!」

 「はいっ」

 しゅっ!

 「次、ワン・ツー!」

 「はいっ」

 しゅしゅっ!。コケッ。

 「あ…」

 オルティアが足を滑らせ転倒した。その時、

 「プッ…」

 部屋の片隅から失笑が聞こえた。

 がたんっ!

 イスを倒しながら激しく立ちあがるエディ。

 「今笑ったの誰だぁっ!!」

 静まり返る室内。

 「誰だって最初は初心者だったはずだ。みんなこうして1歩づつ上達していくもんだろうがっ!。それを…」

 激昂するエディ。

 「エ、エディ…、やめて…」

 エディの腕にすがるニーナ。その時、先程の本を読んでいた男が「バンッ」と音を立てて本を閉じた。

 「っせーなぁ。迷惑かけるなって言っただろ」

 ゆっくりと立ちあがる。

 「メガネのにぃちゃんよぉ。ねーちゃんの前だからって、かっこつけてんじゃねーぞ、コラ」

 エディに近づく。エディに比べ随分体格がいい上に、タチも悪そうだ。

 「おめぇだって飛び入りだろ〜。偉そうな口きいてくれんじゃね〜の。あ〜ん」

 「いちゃもんをつけてるつもりは無い。モデラーとしてのスポーツマンシップの話をしている」

 気丈に返すエディ。その態度が更に反感を買う。

 「へっ。優等生だな。よほど自信があるってわけだ?」

 「さぁ、そいつはどうかな…?」

 「おもしれぇ。見せてみな、おめぇのプラレスラーをよぉ!」

 「…………」

 しばし男と睨み合うエディ。無言で足元のケースをテーブルに乗せ、ケースを開いた。中から現れたエディのプラレスラー、パールホワイトとメタリックレッドのツートンに彩られ、クリアーコートされた上にモデリングワックスまでかけられ、室内の照明を映し濡れたように輝く「ゼファード MKV ZX」。

 「うっく…」

 「これが俺のプラレスラー『ボレアス』だ…」

 男の顔色が変わった。控え室内にも「おぉっ…」という喧騒が広がる。

 「ふわわわわぁ〜…」

 ニーナも、その仕上りにしばし見惚れる。

 先述の通り、上級者ほどその第一印象は的確である。塗装の美しさはもちろん、パーツの合い、全体のバランス、まとまりの良さ、そして何より全身から放射される存在感が見るものに強烈な印象を与える。

 室内の喧騒からは

 「あ、あれ、タヤマのゼクロスっ?!」

 「すげぇ、あんなに煮詰まったゼクロス初めて見た…」

 「やべぇよ、上級者のゼクロスは強ぇって聞いた事あるぜ、俺…」

 そんな囁きが聞こえる。

 エディの目の前の男は、明らかに動揺している。

 「どうした?。顔色が悪いようだが。腹でも痛いのか?」

 「う…うるせえっ。たかがゼクロス、それも初期型じゃねぇか!。うちにはONDAやイタチのプラレスラーがゴロゴロいるぜ」

 「ベース機の性能差なぞ、モデラーの腕の差に比べたら微々たるもんさ」

 「んだとぉっ!

 「君のプラレスラーは見せてくれないのか?。ONDAかイタチなんだろ。いやぁ、強そうだ」

 「うっ…くくく…」

 「今日、君と対戦できるといいな。楽しみだ」

 「おっ、おお!。首洗って待っとけや!!」

 男は顔を引きつらせながら背中を向けた。

 「…エディ」

 ニーナがイスに座ったまま心配そうにエディを見上げていた。

 「すまん。余計な時間を費やしてしまった」

 そう言いながらイスに腰掛けるエディ。

 「さっき、モデラーには悪い奴はいないって言ったが補足する。ヤな奴はたまにいる。俺も勉強になったよ」

 ふと、さっきの男に目をやるエディ。男は何やら必死にキーボードを弾いていた。周囲に目をやると、皆真剣な表情でなにかしら作業をしている。

 夢中でキーボードを叩く者、せっせとプラレスラーを再調整する者。エディのZXが起爆剤になったようだ。

 「(なんだ。いい団体じゃないか…)」

 しかし、反対に小さく縮こまっている者もいた。ニーナだ。

 「…………」

 「ニーナ?」

 「ごめんなさい。私のせいで…」

 「全然ニーナのせいじゃないよ。さっ、時間がもったいない」

 エディは自分のパソコンの電源を入れ、ニーナのパソコンとケーブルで接続する。

 「まず、オルティアの左腕を開いてくれ。電源はそのままでいいが、肘と肩のギアをニュートラルに」

 「え?」

 戸惑うニーナを尻目に、凄いスピードでキーボードを叩きながら言った。

 「左右のパンチのスピードが違う。モーターの音は左右一緒だからモーターや電気系ではない。異音も聞こえないから駆動系でもない。となると、もっと単純だ。オイルかグリスの不足だろう。たぶん左上腕だ。点検してくれ」

 「…………」

 あっけにとられるニーナ。

 「どうした?。時間が無いぞ。俺はその間に足さばきと体重移動の修正プログラムを組むから」

 「エ…エディ…」

 「ん?」

 「どっ、どうしてそんな事まで分かるの?、たったパンチ4発みただけよ!。私っ、毎日見てて分からないのにっ!」

 エディは笑いながらニーナの頭を「ぽむぽむ」と軽く2回叩いた。

 「そういう事をこれから教えるんだよ。知りたいだろ?」

 「!!」

 「俺の授業はキツイぞ。ついてこれるか?」

 「…は、はいっ。どこまでもついていきますっ!!

to be Next.

 

 〜あとがき〜

 「オルティア」はディンキィと違って「プラレスラー」を意識して描きました(ってゆーか、ディンキィ元々プラレスラーじゃないし)。オルティアがPUREの中で一番プラレスラーらしいかも(笑)。

 エディのZXは、ゼファードの極初期のデザインを今回用に焼き直したものです。EXIVと比べて初期型っぽい感じが出てればいいなと思います。

 この話はもうちょっと続きます。次話は試合あるかにゃ〜。

※註

 「ゼファードMKV ZX」

 エディのプラレスラー。今回は「ボレアス」の偽名で参加。詳しくは「プラレスラー名鑑」タヤマ開発部参照。性能的にはニックの「EXIV」には遠く及ばない。

 「ボレアス」

 ギリシャ神話より。風の神の名。風の神は「ボレアス(北風)」「ノトス(南風)」「エウロス(東風)」そして「ゼファー(西風)」の4人。西風は気優しく、北風は荒々しい神とされる。

 「オルティア」

 同じくギリシャ神話より。北風の神「ボレアス」の妻の名。

 「クリアーコート」

 クリアーコーティング、ツヤ出しの事。塗装後、更にクリアー(透明)を重ね塗りしコンパウンドで磨く事で濡れているかのようなツヤが出る。デカールの定着及びデカールの段差消しの効果もある。自動車のプラモデルの製作には欠かせない技術。グンセの「Mr.トップコートスプレー(光沢)」が便利だが、筆者はクリアー吹きにもエアブラシを使います。その方がツヤ出ますよ〜。

 「モデリングワックス」

 プラモデル用の液体ワックス、そんな物が実際にあるんです。これも自動車のプラモデルには必需品。ツヤ出し効果だけでなく、ホコリや指紋の付着を防ぐ効果もあります。

 

 

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