オリジナル・ストーリー「PURE」

 

「PURE」 28th

 

 照明の落とされた会場に唐突に大音量のBGMが流れる。続けて天井から伸びたスポットライトが会場を縦横無尽に駆け回り、やがて会場の中央を明るく照らし出す。

 中央に集められた照明の中に1人の女性が立っていた。奇抜だがセンスのあるきらびやかなコスチュームを纏い、一見女性型プラレスラーかと思ってしまう。その女性が歓声で沸く会場に向け声を上げた。

 『モデラー達の愛と夢の結晶よ!。プラスティックとモーターが紡ぐ希望の戦士たちよ!。死力を尽くして戦うがいい!。この世に生を受けたその目的を果たすがいい!。自らに与えられた力を存分に発揮するのだ!。我々はその目撃者となる!。皆よ、今宵この場に立ち会えた事を誇りに思うがいい!』

 ちょっとクサイが、地方団体にしては中々の演出である。会場は大きくはないが観客の入りは上々で、これはもう小団体という表現は相応しくないと思える。なんといっても、この団体は参加者が多い。何とこの興行は今日明日の2日間に渡って行われるのだ(試合形式はトーナメント戦なので、参加者は勝ち進めばの話だが)。ちなみに、この団体は複数のリングを使って同時に試合を消化する事をしない。観客に全試合を見てもらうという趣旨である。

 「ほぅ…」

 「ふわぁ〜」

 開始のセレモニーを花道の奥から眺めていたエディとニーナは揃って感嘆の声を上げる。もっとも、エディとニーナでは驚きの種類が違うが…。

 「凄い歓声…。私…ここで試合するのね…」

 ニーナの膝が震えている。更に緊張が高まっているようだ。

 「(…こりゃあ、ダメかな…)」

 ニーナの様子を横目に見ながらエディは思った。

 ―――

 先刻、エディともめた男の言った事は誇張でもなんでもなく、第1試合からエディの予想を上回る内容が展開された。対戦カードはONDAの商品名「LSXtypeR」と、ヤマカワの同じく商品名「崑崙八仙(ころばせ)」。

 「LSX−R」はONDAの最上位機種で、ヘビー級ながら国産機種最高メーカー希望小売価格を誇る(タヤマの「ZUフルセット」が軽く3セットは買えてしまう!)。軽量化のため防禦力にやや難があるが、スーパーベビーのパワーとJr.ヘビーのスピードを両立した、市販状態で既に一流モデラー並の性能を発揮する、価格に相応しい性能を持つ機体である。レギュレーションによって使用を禁じている団体もあるほどである。高価な「LSX−R」を購入できるのはユーザーの中でも極1部に限られ、持っているだけで自慢ができる、そんな機体である。もちろん今大会の優勝最有力候補である事は誰の目にも明らかである。(ちなみに、こんなONDAにもコスト面で市販不可能だった機体が何機かあるらしい。そこらへんは筆者よく知らないが…。)

 「崑崙八仙」もヤマカワの自信作である。ヤマカワというと重機メーカーというイメージから、スーパーヘビー級の圧倒的パワーが印象深いが、この「崑崙八仙」は“超”高速戦闘型Jr.ヘビーである。相手の攻撃をかすらせもしない回避能力が自慢で、まさに「蝶のように舞い蜂のように刺す」戦いを身上とする。

 第1試合から凄まじい試合が予想された。その期待通り、劇的なフィニッシュだった。劣勢だった「崑崙八仙」が一瞬の隙を突き、「LSX−R」をカウンターの逆1本背負い投げからのストラングルホールドでギブアップを奪うという見事な物だった。この番狂わせに、観客の盛りあがりは第1試合から最高潮に達した。

 第一試合からこのようなメインイベント級の組合せを持ってくるという事は、この団体の自信を表している。この後にはもっと凄い試合が用意してあるという意味である。第一試合から観客を引き付け、多少退屈な試合が続いても観客を飽きさせない為の作戦である。

 しかし、この第一試合はエディの闘争心に火を点けるには十分過ぎた。

 「(久しぶりに本気でやれそうだ…)」

 エディは、久しく忘れていたアドレナリンが放出されていく自分を感じていた。その横でこの試合を見て、自分とのレベルの違いに顔面が蒼白になっているニーナにも気付かない程に。

 ―――

 第2試合が始まる。エディは1人、控え室で椅子に掛けモニターを眺めていた。そして選手入場。軽やかな音楽に合わせ花道をにこやかに手を振りながら歩くのは、先ほどニーナを手洗いに連れて行ってくれた女性ではないか!。

 「皮肉なものだ…。まさか彼女が最初の対戦相手とは…」

 呟くエディ。そして相手選手の入場。ニーナが持参した曲の前奏が流れる。しかし、曲が進んでも肝心のニーナが現れない。

 「…………?」

 エディが不安げにモニターを覗きこむと、画面の中をニーナが小走りに駆けた。が、しかし、慌てて花道を引き帰すニーナ。しばらくしてオルティアを肩に乗せたニーナが再度パタパタと走る。そして、

 べちゃっ!

 幼稚園児のようにコケるニーナ。慌てて駆け寄った2人の係員にズルズルと引きずられて、捕らえられた宇宙人のように花道を入場するニーナの姿をカメラが追う。

 思わず頭を抱えるエディ。この待ち時間、出来るだけの事はやった。やったと言っても、出来たのは全身のバランス調整とプログラムの点検ぐらいだが、正直、自分でも良くここまで出来たもんだと感心している。今のオルティアなら少なくとも観衆の失笑を買うような事はないだろう。しかし…。

 「どうする…?、エディ…」

 自問自答するエディ。今のニーナの極限の緊張状態では、まともな操作は期待できない。第一、エディの調整によって見違えるほど動きの変わってしまったオルティアに、ニーナが対応出来そうも無い。

 エディは後悔した。自分がした事は間違っていたかもしれない。ニーナがこれからもプラレスを続けるには自分で切り抜けなければならない事に介入してしまったのかもしれない…。

 ふと、そこまで考えてエディは我に返った。自分は…、なぜここまでやってしまったんだろう?。今日初めて出会った、どこにでもいるような普通の少女に…。

 「…………ニーナ、か…」

 ニーナのコロコロ変わる表情がエディの脳裏を走馬灯のようによぎる。そして、

 ガタン!

 椅子を鳴らして立ち上がったエディは控え室を後にした。

 ―――

 ニーナの対戦相手「橘 杏子」は、すらりとした細身で女性としては長身である。端正な顔立ちとサラサラの黒髪が印象的で、ラフに着込んだ白いTシャツとGパンが妙に似あっている。

 杏子のプラレスラー「フレイヤ」は、やはり女性型Jr.ヘビーである。長いストレートの黒髪を後でリボンで縛った風貌が、オーナーの杏子に良く似ている。

 胸元の開いたフリフリのドレス、ワイヤーが入ってブワッと広がったスカート。これはもう誰が見ても某ファミリーレストランの制服ではないか!。後で判った事だが、フレイヤには特定の外観は無いらしい。毎回異なったコスチューム、ヘアスタイルで登場し観客を湧かせるのが、この団体の恒例行事となっているとの事だ。ちなみに前回は某有名女子高校の制服だったそうで、ご丁寧に同スケールの学生カバン持参だったそうだ。そういえば今日もちゃんとウェイトレスの持つトレイを持っている。杏子というモデラー、コスチュームの小物にまで気を回せるという事は、相当の実力者と考えて良い。

 実際ニーナのオルティアと比較しても、その仕上がりの差は歴然である。第一試合とうって変わって、一方的な試合が予想された。

 「両者、セットアップ!」

 リング中央に立つ、元プラレスラーの屈強レフェリー「フラッシャー木村」(実は当団体最強と言われている)の声に「びくっ」っと体を震わせるニーナ。

 「フレイヤ、セーット・アーーーップ!!」

 杏子の澄んだ声と共にリングに華麗に舞い降りるフリフリのフレイヤ。観客席から凄まじい歓声が上がる。その歓声に応え、クルクルとリング上でダンスを披露するフレイヤ。その人気は絶大だ。その様子をしばし呆然と見つめるニーナ。

 「任井名君!、どうした?。セットアップだ!」

 「っ?!。は、はいっ!」

 レフェリー席に座る「フラッシャー」のオーナーの木村さんの声で我に返るニーナ。慌ててオルティアを手に取り、語りかけた。

 「行くよ、オルティア。エディもどこかで見てくれている。大丈夫!、きっと上手にやれるわ!」

 自分に言い聞かすように言うニーナ。そして、

 「オルティア!、セット・あっ?!

 オルティアをテーブルの角にぶつけた…。

 

to be Next.

 

〜あとがき〜

 なんかこの「ニーナ編」、思ったより長くなってまして(笑)本編の続きが気になる〜という方には申し訳無く思います。でも、これも「PURE」の世界のワンシーンです。本編ですら全体の1局面に過ぎないとゆー感じです。ニックとファニーが命の危険にさらされてる時にも、同時にこーゆー平々凡々な世界も進行中な訳です。そのギャップを楽しんで頂きたいと思います。

 本文や注釈に色んなメーカー名が乱立してますが、実は「PURE」終了後の次回作への布石と言う話もチラホラ…(うそっっっ?!!!)。

※註

 「ONDA」

 自動車メーカー「恩田技研工業」。現在のプラレス業界では最大手と言われる。第1話参照。

 「ヤマカワ」

 農重機メーカー「山川発動機」。第1話参照。自動車のエンジンの開発もしており、国内トップの「チヨダ自動車」にエンジンを供給している関係から、オンダとヤマカワは元々ライバル関係といえる。

 当初はパワーシャベル等の重機のノウハウをもとにプラレスに参入、初めてプラレスラーに油圧シリンダーを採用したメーカーでもある。大パワーのスーパーヘビー級を得意としていたが、最近ようやく軽量級の開発に成功した。それは、「杉友重金属」と共同開発した超小型モーターの成功による所が大きい。ヤマカワは国内で初めて「タブチ」以外のモーターを使用するメーカーとなった。

 これにより「タブチ」と「杉友」のモーター競争が勃発。プラレス業界を大きく巻き込んでいる。「タブチ」は旧知の「タヤマ」と協力し極秘に“ある実験機”を使用した超小型大出力モーターの試験を継続していると言われているが…。

 以上、本編に載せると複雑になるので割愛した「PURE」の裏設定の1部でした〜。実は各メーカーにそれぞれ1個づつこんな裏話を用意してあります。発表する機会は…あるかなぁ?。

 「崑崙八仙」

 雅楽の題目。「ころばせ」と読む。仙人に扮した4人が鶴の面と扇状の冠を付けて舞う。舞鶴とも呼ばれる。4人なのに八仙とはこれいかに?。

 「フレイヤ」

 北欧神話。雨と太陽と果実を司る神「フレイ」の妹の名。北欧神話に女神は少なく、随所に登場する。北欧神話はオモシロイです!。ドロドロの人間関係(神様関係?)が笑かしてくれるギリシャ神話とはまた違った「なんじゃそりゃー」というネタ満載。興味のある方には角川文庫「ギリシャ・ローマ神話」(ブルフィンチ著)がオススメ。北欧やヒンズーも載っててお得です。「あぁっ女神さまっ」ファンは北欧神話読んどきましょう。

 「某ファミリーレストラン」

 首都圏在住の方には説明不用でしょう。制服が有名なあのファミレスです。行ってみたいです〜。

 

※管理人ブルーより。

 捕らえられた宇宙人ってこれか!これだな?

 これ

 (ちなみに、画像は毎日コミュニケーションズ発刊、「CD−ROM Fan 特別編集」の付録CD−ROMから転載しました。)

 

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