「PURE」 30th
『タイガーバズーカじゃー!』
何やら懐かしい格闘ゲームに興じる1組の男女。ここはブティックホテルの1室。2人の格好は半裸で、既に行為を終えた後らしい。男性はニックである。その隣の、髪の長い女性は…。
ニックは、傍らで無邪気にコントローラーを操作する女性の横顔を見た。そして…。
「(女って、怖い…)」
今更、高校生のような事を思う。
― 第4章「a Visiter」―
今朝、ニックは東京駅新幹線ホームに立っていた。待っていた列車は到着したが、言われた通り先頭のグリーン車の出口で待ったにもかかわらず目当ての人物は現れなかった。
「(…乗り遅れたのか?。それなら連絡ぐらいあっても…)」
ニックは携帯電話を取り出すため、ズボンのポケットに手を伸ばした。その時、
ぼくっ!
「きゃんっ!」
「えっ?」
どうやらニックの真後ろに女性が立っていたらしい。その女性に偶然エルボーを命中させてしまったようだ。ニックが慌てて振り向くと、若い女性が1人、尻持ちをついて倒れこんでいる。
「あっ、す、すまんっ!。大丈夫か?」
「あいたたたたぁ〜。ひどいわ、もう…」
「悪かった!。全然気が付かなかったよ。でも、人の真後ろに立つのは危ないから、やめた方がいいぞ」
「ちぇっ…。せっかく驚かしてやろうと思ったのに…。背後にも隙は無いのね、さすがだわ」
「はい?」
ニックは改めて目の前の女性の顔を見た。そういえば面影がある。今日会う予定の女性に…。
「お…お前!、美雪か?!」
「お久しぶり、ニック」
―Intermission 3 美雪―
She felt as if she was dreaming, little time...
そう言って手を差し出した女性の声は、確かに楢塚美雪の物だった。ニックは半信半疑なまま美雪の手を握り、美雪を引っ張り起こす。美雪は
「もうっ、おニューのスカートなのにぃ…」
などと不平を呟きながら、お尻の埃を掃う仕草をする。その美雪の様子をまじまじと見つめ、記憶にある美雪と間違い探しをするニック。
1.明らかに痩せている。
2.あの丸眼鏡をしていない。
3.うっぴーと同じだった髪型が下ろされ、かなり伸びている。
4.軽く化粧され、ソバカスが隠されている。
5.前回逢った時は味気ない服装だったが、今日はなかなか今風である。
…つまり、ほとんど別人である。ニックが気が付かないのも頷ける。そのニックの視線に気付いた美雪が言った。
「?。何、どーしたの?」
「どーしたもこーしたもあるか。随分と変身したじゃないか」
「てへへ♪。お気に召した?。これであなたの隣に立てる?」
そう言って、その場で「くるり」と1回転する美雪。スカートが「ふわり」と広がる。素肌の脚が一瞬覗く。そして、
「あ、らららららっ?」
バランスを崩し、再びコンクリートの足元に倒れこむ。
「…?。何してんだ、お前?」
「ごっ、ごめんなさいっ。慣れない事はするもんじゃないわね」
そういって胸元から見覚えのある丸い眼鏡を取りだし、顔にかけてから立ちあがる。
「なんだ?。コンタクトにしたんじゃないのか?」
「それはニック次第」
そう言いながらニックの顔に自分の顔を近づけ、眼鏡を軽くずらしながらニックに訊く。
「ね?。どっちが可愛い?」
「いや、どっちと言われてもな…」
答えに窮するニック。
「あなたが決めて。私がコンタクトにするかしないかは、あなたが決めていいわ」
男には非常に答えずらい事を平気で尋ねる美雪。ニックは躊躇する事無く本心を口にする。
「どっちでもいいさ。美雪である事に変わりは無い。髪型や服装もそうだが、本人に似合っているかどうかの方が大切なんだ。“どっちが可愛い”じゃない。“どっちが似合う”だ」
「…なんか、こないだと言ってる事が違う」
「そうか?」
「だって、こないだは「俺の横に立てるようにファッションの勉強をしろ」って言ったわ」
「そりゃ、ある程度はな。ジャージで来られても困る」
「来るわけないでしょ!。で、どう?、私の勉強の成果は。頑張ったんだからね〜♪」
そう言ってスカートの両端をつまんでお姫様ポーズを決める美雪。悩む必要など無い。これなら10人中10人が「可愛い」と思うはずだ。まさに大変身を遂げた美雪。しかし、美雪を見つめるニックの表情は険しい。
美雪の変貌振りが気に入らない訳ではない。実はニックは反省していた。女性にとってダイエットがどれほど過酷かは理解している。服装や装飾品も安い物ではない事は見れば分かる。半分冗談のつもりで言った1言が美雪にどれほどの重荷となった事だろう。しかしその反省を口にする事はできない。それは美雪の努力を否定する事になるからだ。ニックは心の中で美雪に詫びていた。
一方、美雪はそのニックの表情を見て肩を落とした。実は美雪は自信があった。ニックを驚かせてやろうと思っていた。ニックに誉めてもらいたかった。しかし、叶わぬ夢だったかと落胆した。
「…はぁ。だめかぁ…。厳しいなぁ、ニック…」
「さて、出掛けるか。どこ行くか、考えてあるだろうな?」
ニックは敢えて心中を無視した言葉を発した。
「えっ?」
「合格だ。約束通り、どこでも連れてってやるぞ」
「ほっ、ホント!」
「あぁ。ちょっとびっくりしたぞ。変わり過ぎだ、お前」
「やったぁ!」
軽く飛び跳ねガッツポーズの美雪。広がるスカートの合間から一瞬覗いた太股に貼られた絆創膏。
「ねぇねぇ。それじゃ、何点?」
既にニックの性格を把握している美雪。
「…そうだな。80点。いや、85点だな」
「凄いっ!。ひょっとしてハイスコア?」
「そりゃどーかな?。ノーコメントにしておく」
「ひょっとして〜、ファニーさん?」
「ぶっ!!」
思わず吹き出すニック。まさか本当の事を言えるはずも無いし、実際ニックにはファニーに対して特別な感情は無い。
「相変わらず勘違いが得意だな。あいつとは同僚以外の何物でもない」
「そうかなぁ〜?」
「バカな事言ってないで行くぞ」
ごまかすように先に歩き出すニック。
「あんっ、待ってよ〜」
すたすたと先を行くニックに慌てて駆け寄り、後からニックの腕を捕まえる美雪。ニックの腕を両腕で抱きしめる。美雪の大きな胸の膨らみが腕から伝わり、心の中で「ををっ」と歓喜するニック。通常であれば無断で腕を組むなど絶対に許さないニックだが、今回は良しとする。しばらくそのまま歩く2人。
「ねぇ、ニック?」
「なんだ?」
「私…、変わったわよね?」
「そうだな」
「どこがどう変わったと思う?」
「…………」
ニックは苦笑した。美雪の考えてる事が分かってしまった。ハッキリと口で言って欲しいのだろう。それは余りにも少女的な発想だ(ファニーがこんな事言ったら背筋が凍る事だろう!)。
「美雪…」
「うんうんっ」
「…また今度な」
カクッとコケる美雪。
「なんでよ〜?」
「俺の歳を考えてくれ。口にするのを躊躇してしまう言葉もある」
「ぶーーーーっ」
頬を膨らませる美雪。
「分かった。今日中に言う。約束する。が、タイミングはこっちにくれ」
「ホント?」
「俺は約束は守る男だ」
「そうよね。確かに約束は守る人だもんね。分かった。いいタイミング期待してるわ。それじゃ行きましょ!。最初はねぇ…」
2人は新幹線改札口を抜けると再び腕を組んだ。この後ニックは、当初想像していたのと全く異なる、はとバスツアーのような観光名所巡りに付き合わされる事となった。だが、初めて登った東京タワーは以外に悪くないと、隣の美雪の無邪気な笑顔を見ながら思った。
to be Continue,intermission3...
〜あとがき〜
以前からキツイと公言してきた第4章、スタートしてしまいました。第1章から点々と散りばめてきた色んなネタが一気に集結する章です。本作において最大の盛り上がりとなると思います。
キツイのはストーリーだけじゃなくて、大量に登場する新キャラ・新プラレスラー(マイナーチェンジ含む)のクリンナップも上げなきゃいけないとゆーのもあります。実はまだラフも出来てないキャラもいたりします。間に合うのかね、これ…?。
そして、本作の正ヒロイン「楢塚美雪」の再登場です。えっ?、そうなんです。彼女がヒロインなんです。そこで皆様にお願いです。もう1度彼女の事を思い出しておいて欲しいのです。出来るなら、彼女の登場した場面を再読して頂けたら幸いです。
彼女に次の曲を捧げます。久保田利伸「君に会いたい」―――古い曲で申し訳ありません。「BONGA WANGA」というアルバムに入ってます。お持ちの方には、16話の冒頭を読みながら聴いて頂きたいと思います。
様々な思惑が交錯する第4章、色んな来訪者が登場します。もうしばらく美雪の“夢のようなひととき”にお付き合いください。次話はきっと、読むのも恥ずかしいですよ♪(書くのはもっと恥ずかしいが…)。
※註
「タイガーバズーカじゃー」
データイーストのNEOGEO用格闘ゲーム「ファイターズヒストリー」。カプコンに「ストU」のパクリとして提訴された事で有名。「タイガーバズーカ」は主要キャラ「溝口」の必殺技で波動拳系。なぜか関西弁で「タイガーバズーカじゃー!」と叫んで撃ちまくる。
確かに「ストU」のパクリなんだが、特定部位を続けて攻撃する事でピヨリが発生する「弱点システム」は秀逸。個人的には名作の1本。
